「ヨタヘロ期」の日常をユーモラスに綴る

老~い、どん! あなたにも「ヨタヘロ期」がやってくる
著 者:樋口恵子
出版社:婦人之友社
ISBN13:978-4-8292-0914-1

――初のエッセイは、笑いに包まれて。――

「みんな“ピンピンコロリ”で逝きたいと思っているけれど、そんなこと、実際にはほとんどないのよ。ピンピンの後には、ヨタヨタ、ヘロヘロがあって、最後はドタリ。これが現実。だから、“ヨタヘロ期”の現実を広く伝えなきゃいけないし、それでも、楽しげに生きる姿を見せたいの」。そのようすを綴り、好評中の連載エッセイ「人生百年学のすすめ」(隔月刊誌『明日の友』連載)を1冊にまとめたいとお会いしたときに、樋口さんがおっしゃった言葉だ。

“ヨタヘロ期”とは、平均寿命と健康寿命の間のおよそ10年をさす、樋口さんの造語で、88歳の樋口さんは、まさにこのヨタヘロ期真っ最中。「人の寿命が家の寿命を追い抜いたばかりに、ちょっと素敵な老人ホームに入る資金にと貯めておいた虎の子が、家の建て替え引越し費用に消えてしまったのよ。84歳のとき。歳をとってから、通帳の預金残高が減るのを見るのは、けっこう辛いものよ。それで金欠ウツ。そうすると、食欲もなくなって適当な食事をしていたら、今度は栄養失調。食べものが買えないわけではないから、名づけて“中流型栄養失調”」と次々に打ち明けてくださった。

毎朝感じる体の痛みでヨタヨタ、“中流型栄養失調”でヘロヘロ、“老後の老後”のお金の不安でウツウツ、外出時は老人特有のトイレの悩みでヒヤヒヤなど、その日常をユーモラスに綴る。社会派の印象が強い樋口さんが、ここまで包み隠さず見せるのは、人生100年丸の先頭をいく者としての責任感から。「ご同輩!」や「後輩」たちのために、より生きやすい社会をつくりたいとのメッセージと共に、「ケアされ上手に」「老年よサイフを抱け」などのエールも忘れない。

一方、読者の方たちからは、嬉しい共感の声が次々に届いている。「85歳のヨタヘロ期です。心あたりばかりで、読みながらうなずいています」「老化や病気への不安に駆られていましたが、樋口さんの生き様に触れて、一歩先を楽しげに歩んでおられる姿に元気と目標を与えられました(79歳)」「先生のユーモア溢れる内容に、声を出して笑いながら楽しく拝読しました。今後の人生の参考になりました(63歳)」などなど。

〈いくつになっても、可能な限り、人間として個人としてよい人生を過ごすには、何が必要なのか。「老〜い、どん!」。号砲はすでに鳴りました。こけつまろびつ一生懸命進むしかありません。〉との言葉に、人生の折り返し地点にいる私も、楽しげに豊かに生きるヒントをいただいている。

そして最後に。この表紙とタイトルには、幸いなことにお褒めの言葉をいただくことが多い。

装丁は、装丁家の第一人者として数々の代表作をもつ坂川栄治氏。表紙としての強さと美しさの中に、ユーモアを盛りこんでくださった。タイトルは、「明るく、前向きで、インパクトのある言葉に」と、装丁の相談時にスタッフ皆で頭を悩ませていたとき、最後に私の口をついて出たのが「老―い、どん」。即座に坂川さんが「いいね! それがいい!」と反応してくださり、著者の樋口さんにご相談すると「おもしろい!」とのお返事。こうして、ちょっと不思議で、唯一無二の1冊を世に送り出すこととなった。

お世話になった坂川さんが、この8月に急逝され、心躍るような仕事をもうご一緒できないかと思うと残念でたまらない。豪快でチャーミングな坂川さんとの時間を共にさせていただいたという意味でも、私にとっては特別で愛おしい1冊である。(小幡麻子 / 婦人之友社・書籍編集部)