「考古学史」を知る意味がここにある

 
若い読者のための考古学史
著 者:ブライアン・フェイガン
出版社:すばる舎
ISBN13:9784799107881

 もしあなたが「考古学は男の仕事だ」「考古学者といえばインディ・ジョーンズでしょ?」こんなふうに思っているなら本書の中盤、第19章を読んでほしい。そこには「砂漠の女王」の異名をとる、とびきり男前なガートルード・ベルという女性考古学者が登場する。

 また、もしあなたが「そもそも考古学って何の役に立つの?」と思うのなら、本書冒頭、第1章を読んでほしい。そこでは考古学誕生秘話として、乱掘盗掘なんでもありの野蛮きわまりない宝探しから考古学が生まれたことがアイロニカルに語られる。そういう過去をもった学問であることを、世界先史学の権威である著者は素直に認め、一研究者として悔しがってもいる。

 たしかに考えてみれば、古代エジプトのファラオの豪華な副葬品や神聖文字の石板、メソポタミアの粘土板や敦煌の仏教経典写本などが、なぜイギリスやフランスをはじめとする列強国の博物館に収まっているのだろう。それはまさに「なんでもあり」の時代だったからだ。すなわち、かつての考古学および考古学者は「どことなく怪しげ」だった。実際、化石人骨を捏造してまで有名になろうとした人も本書には登場する。

 ところが、そんな学問と呼ぶには怪しげで、意外と歴史も浅い「考古」の営みが、いつしか知性や理論の裏付けを身にまとい、今では立派に「考古学」という科学として成立している。このこと自体、ひとつの奇跡ではないだろうか。そういう気づきが、コンパクトながら躍動的な全40章を通じてボディブローのように効いてくる。単に考古学ではなくその歩み、すなわち「考古学史」を知る意味がここにあるのだと本書は訴えかけてくる。

考古学やそれと多くの部分で重なる人類学上の発見によって旧約聖書の矛盾点があらわになるあたりも、スリリングな読みどころのひとつだ。キリスト教世界の人々に大きなインパクトをもたらしたダーウィンの進化論は、考古学の奥行きをも確実に拡げた。その研究対象が人類の起源にまで及ぶようになったのだ。これにより考古学は人間とは何かを問うものに深化した。

 ゆえに本書は、己れの過去を知りたがってやまない人間という存在が、祖先が残した足跡と往古の世界をさぐりながら自問してきた「知の格闘史」としても読める。本書においてわが国についての言及が皆無である点が惜しまれるものの、それをさしひいても一読をすすめたいというのが担当編集として当然の、また一読書人としての切なる願いである。(稲葉健 / すばる舎 編集部)