「境界」に漂うただならぬ空気


辺境中国
著 者:デイヴィッド・アイマー
出版社:白水社
ISBN13:978-4-560-09620-8


ひと口に国境と言っても、さまざまなかたちがある。検問所が設けられ、出入国の際に賄賂が必要なもの。フェンスはあるが穴だらけで自由に出入りできるもの。そもそもどこが境なのか定かでないもの。

本書は、1980年代から中国取材を続けてきたジャーナリストが、新疆、チベット、雲南、東北部の国境地帯を歩き、そこに暮らす少数民族にいま何が起きているのかを詳細に描いたルポである。各地に共通するのは、漢化政策が加速し大量の漢民族移住者が押し寄せていること、そして、国境の「向こう側」と必ずしも隔絶しているわけではないということだ。

しかし、同じ国境地帯とはいえ、地域によって事情は大きく異なる。新疆やチベットでは、漢民族との軋轢が、ときに暴動や焼身自殺というかたちで表出する。一方、雲南に足を延ばすと、麻薬、売春、密輸、人身売買など、漢民族を巻き込んだ(あるいは無視した)国境なき不法行為が横行し、地元当局を悩ませる。そして東北部には北朝鮮という不確定要素が横たわり、人口減少が進む極東ロシアとの間では経済格差が広がるばかり……。

ジャーナリズムの手法に歴史的視点を巧みに取り入れながら、現地の人びとの生の声やエピソードをふんだんに盛り込んで、急速に進む漢化政策に抗い、翻弄されるマイノリティーの実相を描く。米英主要紙誌が絶賛した現代中国ノンフィクションの白眉!(白水社編集部)