【2023.5.12】週刊読書人note.

 マーティン・ベイリー著
 『ゴッホのプロヴァンス便り』

 生前、ほとんど作品が売れなかったといわれているゴッホ。《ひまわり》《夜のカフェテラス》《星月夜》など、いまでは傑作と呼ばれる絵画を残した彼は、いったいどのような気持ちで、何を考えながら、絵画を制作していたのか。本書はゴッホが家族や友人、画家仲間に宛てた手紙と、手紙に添えられたスケッチ、完成作品を通じて、彼の内面に迫っていく。

 手紙に綴られるのは、日々の生活や町の様子だけではない。弟の仕送りに頼って生きる自身の立場に葛藤し、悩み、その中で作品への想いが吐露されていく。そこから浮かんでくるのは、等身大のゴッホの姿だ。独特なタッチで描かれた作品をゴッホ本人の言葉とともに読む、贅沢な一冊。(岡本由香子訳)(B5変・160頁・3278円・マール社)
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 二〇二三年本屋大賞 発表会

 四月一二日、東京の明治記念館にて「二〇二三年本屋大賞」の発表会が行われた。書店員がその年一番売りたい本を選ぶ本屋大賞は、今回で第二〇回を迎えた。今年の本屋大賞を受賞したのは凪良ゆう『汝、星のごとく』。また、本屋大賞発表会で恒例となった特別企画「翻訳小説部門」では、第一位にクリス・ウィタカー著、鈴木恵訳『われら闇より天を見る』、「超発掘本部門」では、田辺聖子『おちくぼ姫』が選ばれた。

 三年ぶり二度目の受賞となった凪良ゆう氏は次のように感想を述べた。

 「わたしの本屋大賞は、三年前にコロナとともに始まり、会場にすらたどり着けない受賞者となってしまいました。応援してくださった書店員さんに直接お礼が言えなかったこと。同じ場所で喜びを分かち合えなかったこと。この三年間、それがずっと悔いとして残っていました。昨年、『汝、星のごとく』を刊行し、たくさんの書店さんを訪ねることができました。そこで「ずっと応援していました」と声をかけていただきました。会場には行けなかったけど、こんなにもたくさんの書店員さんに応援してもらえているんだ、と思うことができました。今日、再び受賞者としてこの場に立っています。夢のようです。でもこれは夢ではなく、書店員さん一人ひとりの力が作ってくださった現実です」。

 また、昨年の受賞者である逢坂冬馬氏も、花束贈呈のために登壇し、次のようにコメントを残した。

 「本屋大賞に期待されているのは、〝親しみ〟なのではないでしょうか。立場としては読者に近く、売る側であるからこそ、たくさんの小説に慣れ親しんでいる。書店員さんが、いわば口コミ的に優れた小説を選んでいく。そういった〝親しみ〟の集合体がここまで本屋大賞を大きく成長させた。本屋大賞も多くの文学賞とともに文学界を支えていくことが期待されているのだと思います」。

 『われら闇より天を見る』の訳者でもある鈴木恵氏は、「翻訳小説部門」第一位の感想をつぎのように語る。

 「本作は昨年末のミステリーランキングで三冠を獲りました。そのきっかけは、北上次郎氏がまっさきに推薦文を書いてくれたおかげだと思います。登場人物たちのキャラクターが秀逸であったことも、大きな支持を受けている理由だと思います」。

 作者であるクリス・ウィタカー氏もビデオメッセージで登場し、過去にPTSDを患い、そのセラピーの一環として創作を始めたのだと、創作経緯を明かした。

 「超発掘本部門」で『おちくぼ姫』を推薦した宮城県未来屋書店名取店の高橋あづさ氏は、次のように語った。

 「高校生のときに、この作品を読み、大切な一冊となりました。昨年の春頃、品出しの際に、『おちくぼ姫』の背表紙を目にし、とても懐かしくなりました。この作品は、近頃流行りの和製シンデレラストーリーの元祖といえます。主役の恋路だけでなく、当時の人々の暮らしといった本筋ではないところにも魅力があります。古典文学入門編としてもおすすめです」。