【2023.6.23】週刊読書人note.

 久永実木彦著
 『わたしたちの怪獣』

 SF短編集である本作に収録されているのは、四つの独立した物語である。短編で初めて日本SF大賞候補作となった表題作の主人公は、高校生のつかさ。帰宅した彼女が見たのは、動かない父と座り込む妹の姿だった。さらに間髪入れず、目の前の光景を超える非現実なニュースが流れ始める。「東京湾に怪獣が出現しました」。つかさは思う。怪獣の暴れる東京ならば、死体を棄ててもバレないのでは――? 
 怪獣、時間移動、吸血鬼、ゾンビ。テーマは違うが、どの作品でも不条理な世界に抗う人々の姿が描かれる。物語が閉じた後、その先にも待っている彼/彼女らの人生に想いを馳せる。(四六判・298頁・1980円・東京創元社)