【2023.7.7】週刊読書人note.

 

第36回三島由紀夫賞・山本周五郎賞
第47回川端康成文学賞贈呈式 

 六月二三日、都内にて第三十六回三島由紀夫賞・山本周五郎賞と、第四十七回川端康成文学賞の贈呈式が行われた。三島賞は朝比奈秋氏の『植物少女』(朝日新聞出版)、山本賞は永井紗耶子氏『木挽町のあだ討ち』(新潮社)、川端賞は滝口悠生氏「反対方向行き」(交通新聞社刊『鉄道小説』収録)に贈呈された。最初に三島賞の選考委員を代表し、川上未映子氏が祝辞を述べた。

 「受賞作は、出産時の事故によって植物状態になった母と、その娘の二十数年間を描く小説です。この物語にしか描かれていない場面や感情、暴力性が丁寧に、抑制のきいた筆致で綴られていく。ここまで書かれるのかと、胸を打たれました」。

 現役の医師である朝比奈氏は、「医療の世界で生きてきたのですが、何の因果か小説を書くようになりました」と述べ、以下のように受賞者挨拶を続けた。

 「医学部一年生の頃、実習で植物状態の方がいらっしゃる病室を担当しました。会話もなければ心の交流も、視線があうこともない。当時の僕の「生きる」という理解ではまったく捉えられない、独特の生き方をされている方々でした。植物状態として生きることは、どういうことか。実習から二〇年以上経って本作を執筆し、独りよがりではあるけれど、その問いと決着をつけることができた気がします」。

 次に山本賞の選考委員を代表し、今野敏氏がお祝いの言葉を述べた。

 「受賞作は、江戸時代の芝居小屋が舞台のモノローグです。章ごとに語り手も口調も変わりながら、過不足なく物語を成立させ、〝あだ討ち〟の謎を解いていく。その構成力に舌を巻きました」。

 永井さんは受賞者挨拶で次のように語った。

 「長い間ライターをしていたので、たくさんの方にインタビューさせていただきました。その中で出会った人たちの喋り方や空気感、経験が自分の中に少しずつ蓄積されていき、この作品を書くことができた。私と出会ってくださったすべての方々に、御礼を申し上げたいです。これからも精進していきます」。

 最後に、川端賞の選考委員である辻原登氏がお祝いの言葉を述べた。

 「路線図は、正確な方角や距離、場所を示すものではないのに、眺めているうちに奇怪な生き物のように動き始めます。この小説も書き手を離れて動き出し、目的地に辿り着くことなく走り続けるようです。極めつけの鉄道小説で、不思議な味わいの秀作です」。

 滝口氏は、次のように受賞の言葉を語った。

 「小説を書くというのは、自分の言葉ではなく他者の声/言葉を聞くことだと思っています。フィクションである以上、登場人物は現実の世界にどこにもいません。けれど、小説の中に書かれ、読まれた人たちは、私たちを励ましたり、助けてくれたりする。受賞作は一〇年前に書いた作品の後日談にあたります。今回の受賞は、かつて自分に書かれた人たちが、助けの手を差し伸べてくれたように感じています」。