【2023.7.14】週刊読書人note.
『日本におけるキリスト教フェミニスト運動史――1970年から2022年まで』
キリスト教は家父長制や異性愛主義、家族主義がいまだ強く、とてもフェミニズムと結びつくイメージがない。と、思う人もいるかもしれない。しかし、当然、キリスト教の中でも、男性中心主義や性的マイノリティへの排除・弾圧に反対し、試行錯誤しながら実践してきた人たちがいる。
本書は、一九七〇年代のウーマンリブを起点に、現在にまでわたる日本のキリスト者による運動を歴史的にまとめたものだ。
約五〇年間を年表付きの解説、コラム、座談会の形で振り返られるほか、実際に運動に参画していったキリスト者たちの経験談や論文形式による現状の認識と課題まで提示されている。それだけでなく、本書を読めば、戦後にまで継続する日本の植民地主義・侵略の問題もフェミニズム運動に深く関わっていたことにも気づかされるだろう。まさにジェンダーとさまざまな問題がクロスする視点を与えてくれる一書だ。
マルコによる福音が示唆するように、イエスが血縁や異性愛規範、ロマンティックラブイデオロギーや家族主義の強化を否定していたことを本書から想起させられた。〔執筆者=山下明子、山口里子、大嶋果織、堀江有里、水島祥子、工藤万里江、藤原佐和子〕(富坂キリスト教センター編/B5判・216頁・2750円・新教出版社)
本書は、一九七〇年代のウーマンリブを起点に、現在にまでわたる日本のキリスト者による運動を歴史的にまとめたものだ。
約五〇年間を年表付きの解説、コラム、座談会の形で振り返られるほか、実際に運動に参画していったキリスト者たちの経験談や論文形式による現状の認識と課題まで提示されている。それだけでなく、本書を読めば、戦後にまで継続する日本の植民地主義・侵略の問題もフェミニズム運動に深く関わっていたことにも気づかされるだろう。まさにジェンダーとさまざまな問題がクロスする視点を与えてくれる一書だ。
マルコによる福音が示唆するように、イエスが血縁や異性愛規範、ロマンティックラブイデオロギーや家族主義の強化を否定していたことを本書から想起させられた。〔執筆者=山下明子、山口里子、大嶋果織、堀江有里、水島祥子、工藤万里江、藤原佐和子〕(富坂キリスト教センター編/B5判・216頁・2750円・新教出版社)
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道尾秀介著『フォトミステリー』
仕掛けがあり、伏線が回収され、謎が明らかになる――ストーリーを追うからこそ、最後に小気味よくひっくり返され、差し出される「真実」が響く。ミステリーにはやはり、それなりの長さが必要だ。……という思い込みが覆される。本書は一枚の何ということもない写真に、一頁から二頁、短いものではたった一文を併せ、ミステリーが五〇篇仕立てられる。
「さがしもの」では、トルコブルーの海の前にウッドデッキ、女性の二本の足が浮いている写真。それだけ見れば、ジャンプした瞬間かと、特に不思議に思わないが、一篇を読むと、浮遊する足の静まり方に不穏を感じ始める。「さがしもの」とは何なのか――「あなたはまだ小さいから駄目ね。きっとボウリングのピンか、ウィスキーの瓶みたいになっちゃう」という意味深な台詞。「青と白のスカートに似合いそうなシャツ」というキーワード。謎は謎のまま、情景が焼き付く。
「ごめんね」は、「あ、そこ違うな。お別れの挨拶は「さよおなら」じゃなくて「さようなら」。「おなら」じゃクッサいもんね」と軽妙に始まるが、たった数行先で、読者の感情は反転するだろう。そして別の一篇とも連動していく。
鏡文字や逆さまから書かれた文章、タイトルがミステリーのキーになるなど、試みも散りばめられている。「つちのうま」の倒錯した狂気。一枚だけなら単なる笑顔のおっさんの自撮り写真。それにもう一枚、日常的な写真を組み合わせることで、ストーリーが動き出す。
世界とは些細な一点から、いかようにも存在する。実はこの世界は謎だらけだと教えてくれる本でもある。(216頁・1485円・ワニブックス)
「さがしもの」では、トルコブルーの海の前にウッドデッキ、女性の二本の足が浮いている写真。それだけ見れば、ジャンプした瞬間かと、特に不思議に思わないが、一篇を読むと、浮遊する足の静まり方に不穏を感じ始める。「さがしもの」とは何なのか――「あなたはまだ小さいから駄目ね。きっとボウリングのピンか、ウィスキーの瓶みたいになっちゃう」という意味深な台詞。「青と白のスカートに似合いそうなシャツ」というキーワード。謎は謎のまま、情景が焼き付く。
「ごめんね」は、「あ、そこ違うな。お別れの挨拶は「さよおなら」じゃなくて「さようなら」。「おなら」じゃクッサいもんね」と軽妙に始まるが、たった数行先で、読者の感情は反転するだろう。そして別の一篇とも連動していく。
鏡文字や逆さまから書かれた文章、タイトルがミステリーのキーになるなど、試みも散りばめられている。「つちのうま」の倒錯した狂気。一枚だけなら単なる笑顔のおっさんの自撮り写真。それにもう一枚、日常的な写真を組み合わせることで、ストーリーが動き出す。
世界とは些細な一点から、いかようにも存在する。実はこの世界は謎だらけだと教えてくれる本でもある。(216頁・1485円・ワニブックス)
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三津田信三著『歩く亡者――怪民研に於ける記録と推理』
『厭魅の如き憑くもの』をはじめとした、〈刀城言耶〉シリーズのスピンオフ連作短編集である。〈刀城言耶〉シリーズ同様、本作にはホラーとミステリが融合した作品が収録されている。しかし、言耶自身は登場しない。彼のかわりに怪異の謎解きを試みるのは、言耶の研究助手で作家志望の天弓馬人と、女子大生の瞳星愛のコンビだ。
逢魔が時にふらふらと海辺を歩く亡者。とある洋館に迫ってくる首無女。子供の腹を裂く狐鬼とサイズの変わる山中の家。首を絞める座敷婆。「にまあぁっっ」と嗤う口食女(くちばおんな)。言耶が蒐集し愛が伝える五つの不気味な話を、怖がりな馬人は全力で推理する。現実的で合理的な解釈を与えることができれば、「怪異譚」は怪異譚でなくなると彼は考えているのである。
その謎解きは鮮やかで、本格ミステリのような読み心地である。ただし、油断は禁物。真相が明らかになったからといって、怪異の存在が否定されたわけではない。最後まで、気を抜くべからず。(四六判・328頁・KADOKAWA・2090円)
逢魔が時にふらふらと海辺を歩く亡者。とある洋館に迫ってくる首無女。子供の腹を裂く狐鬼とサイズの変わる山中の家。首を絞める座敷婆。「にまあぁっっ」と嗤う口食女(くちばおんな)。言耶が蒐集し愛が伝える五つの不気味な話を、怖がりな馬人は全力で推理する。現実的で合理的な解釈を与えることができれば、「怪異譚」は怪異譚でなくなると彼は考えているのである。
その謎解きは鮮やかで、本格ミステリのような読み心地である。ただし、油断は禁物。真相が明らかになったからといって、怪異の存在が否定されたわけではない。最後まで、気を抜くべからず。(四六判・328頁・KADOKAWA・2090円)