【2023.7.28】週刊読書人note.

 『ローラ・ディーンにふりまわされてる』

 ローラ・ディーンは学校一イケてる女の子。でも軽薄で気まぐれで、恋に自由。そんな同性の恋人ローラ・ディーンに、フレディはもう三度もフラれている。フレディと約束していても、別の子と恋愛をはじめてしまうローラ・ディーン。フレディがちょっと束縛の言葉を投げると、冷たくあしらわれる。そのたびに落ちこんで、慣れない酒を飲んで、大泣きして……でも、ローラ・ディーンが連絡してくると、またよりを戻してしまう。最初は同情的だった友人たちも、何度も同じことを繰り返すフレディに眉をひそめはじめている。そんな中、いつも味方でいてくれる友人のドゥードルに大事件が起きて、ランチで話を聞くはずだったのに、ローラに引き止められて約束を反故にしてしまう。

 恋愛相談の書き手に宛てた、フレディの心情吐露が、全編の一つの軸になっているが、「もちろん、わかっているんです。LGBTQIAの活動家たちが何世紀ものあいだ、闘ってきたおかげで、今のわたしはこんなふうにフラれたりできるって」と記すコマがある。続く高校の授業シーンでは、同性愛についての歴史が取り上げられている。フレディの周囲も両親も同性愛に対して寛容だ。が、長い歴史を通して、人々が感じてきたマイノリティの苦しみとは別の、人を愛し埋められない苦しみ、自尊心を粉々にされながらも、求めてしまうもの。愛と依存との境はどこにあるのか――。

 スマホのメッセージ一本でフラれ、しかもフラれた後も簡単に連絡を取れてしまう、その痛み。そして、黒人差別の問題は、また別に描きこまれている。そのような中、一番醜い自分として出会った、カフェの店員、黒人のヴィとフレディのさわやかな交友がいい。切実に青春の痛みを描く、パワフルなグラフィック・ノベル。米国で漫画・児童文学作品に贈られる賞を数多く受賞、各誌絶賛の話題作。(マリコ・タマキ作、ローズマリー・ヴァレロ・オコーネル画、三辺律子訳、296頁・2750円・岩波書店)