【2023.8.25】週刊読書人note.

 茜灯里著『地球にじいろ図鑑 鉱物×日本の伝統色』

 本書は日本の伝統色をテーマカラーに、その色を持つ鉱物が紹介される。「この本に決められた使い方はありません」。「はじめに」でそう述べられる通り、パラパラと頁を捲る、好きな色/鉱物を探す、巻末の資料でモース硬度を学ぶ。読み方も楽しみ方も、無限大の一冊である。

 たとえば「月白」で紹介される、ムーンストーン。月長石の和名を持つこの鉱物は、ヒンドゥー教で月光が固まってつくられた石という逸話を持つ。また、「向日葵色」の琥珀(アンバー)の名は、中国で虎が石になったものと考えられていたことに由来するという。地球に溢れる美しい色の世界を堪能できる図鑑だ。(A5判・162頁・1870円・化学同人)
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 内藤陽介著『今日も世界は迷走中 国際問題のまともな読み方』

 巷には〝よくわかる〟といった触れ込みの、国際情勢を解説する書籍やテレビ番組が枚挙にいとまがない。しかし、そういったメディアで入手できる情報がある意味いかに〝甘嚙み〟かは、本書を読むとよくわかる。

 特に第一章「中国が仲介したサウジ・イランの国交回復から〝世界を読む〟」は日本人に馴染みの薄い中東情勢の「今」を分析したもので、点と点になりがちな中東地域の国家間の関係が線で結ばれて面で理解でき、頭の中の世界地図が完成する。章題は今年三月に報道された、巷間知られる天敵同士の衝撃の国交回復劇を指す。著者の内藤氏はサウジアラビアとイランの歴史的側面を踏まえつつ、国際的な立ち位置や国家的なアイデンティティなどを時に詳細に、時に舌鋒鋭く指摘する。中東の盟主と呼ばれる一方、アメリカですらサジを投げる「サウジ」という国の正体とは。その本質が見えてはじめて、中東地域理解の本当の入り口になる。

 本書ではほかにも、日本でも人気の北欧スウェーデン、フィンランドの迷走っぷりや、韓国の反日思想の起源など、巷ではあまりお目にかかれない情報が目白押しである。最終章で論じられた日本政治・行政のグダグダっぷりには頭に血がのぼること必至なので、読む際にはご注意を。(四六判・336頁・1760円・ワニブックス)
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『慣れろ、おちょくれ、踏み外せ』(朝日出版社)刊行記念トークイベント開催

 七月二四日ジュンク堂池袋本店にて、森山至貴、能町みね子著『慣れろ、おちょくれ、踏み外せ』(朝日出版社)の刊行を記念したトークイベントが開催された。本書の内容に触れながら、「クィア」をめぐる話題について、社会学者である森山至貴さんと文筆家の能町みね子さんが語り合った。

 本書の刊行について、森山至貴さんは次のように語る。「前著の『LGBTを読み解く クィア・スタディーズ入門』は、教科書に使えるような本として、一人で書きあげました。でも、小綺麗に整理されて出来上がったものだけがクィア・スタディーズではないと思ったんです。だから、今回は、対談の形をとり、クィアが有する現在進行形で組み立てられ、壊されていくプロセスをそのままお見せすることにしました」。

 能町みね子さんは本書を次のように紹介する。「さまざまなトピックに対して、クィアの観点やフィルターを通すと、どのように捉えることができるのか。それをこの本で話しています。なのでクローン人間、SMプレイの話題などもでてきます」。

 さらに、トークはLGBT理解増進法にまで及び、能町さんはこの法律の問題を言葉の点から指摘する。

 「〝理解増進〟という言葉がむかつく。そもそも理解してもらいたいといった話ではないし、どのようなアイデンティティや立場であっても、安易に理解できると言い切ることはできない。それに(差別の禁止などではなく)理解増進を目標にしてしまうと、理解が深まっていないことを言い訳にした差別の口実を永遠に与えてしまいます」。

 それを引き受けて森山さんも次のように見解を示した。「理解を待っていると救われない人がいる。理解増進という言葉は、だれかの命が他者に委ねられてしまう気がします。誰かが理解していなければならないとする建付けがそもそもダメなのではないでしょうか」。

 また、本書をどのような人に読んでほしいかという質問には次のように語ってくれた。

 能町さんは、「なんとなくモヤモヤを抱えているセクシャルマイノリティの方が読めば、少しはすっきりするかもしれませんし、なにかのきっかけとなるキーワードが見つかるかもしれません。もちろん、セクシャルマイノリティの方に限らずとも読んでほしいです。なんとなくおとなしく過ごしている人。何かに怒っているけれどもどうしたらいいかわからない人。不条理に対して、気持ちの持っていき場がない人。そういう人にとっても助けになるかもしれません」と述べる。

 森山さんも、「日々に不条理を感じている人に読んでもらいたい」と賛同しつつ、「本書に続けて、セクシャルマイノリティの当事者が書いたほかの本も読んでほしいですね。そうした本を読むことで、それぞれの違いや距離などを摑むことも必要だと思います」と関連書籍を読むことの重要性を説いた。

 また、マイノリティへの差別や迫害の正当化に「文化の多様性」などが持ち出されることについては、次のように答える。

 能町さんは、「先進工業国的な価値観をなんでも当てはめていくのはよくないという前提がありつつも、やっぱり文化だからといって差別を許容できるわけではない。最近は差別する自由を認めないのかと言う人もいますよね。誰にでも寛容ではあるべきですが、寛容でないことに対してだけは不寛容であるべきだと思います」。

 森山さんも、次のように語った。「ある文化のなかで多様性を否定するようなものは斥けることはできるし、すべきだと思います。多様性を尊重しないとする立場を「多様性の尊重」には含めない、とジャッジする必要がある」。続けて森山さんは、「こうした議論の際に、特定の地域や国家、文化圏がよく参照されます。でも、私たちはその文化について何を知っているのか、偏見やイメージに基づいていないのかということは気にした方がいいと思います」と注意も促した。