【2023.9.8】週刊読書人note.

 政木哲也著『本のある空間採集 個人書店・私設図書館・ブックカフェの寸法』

 全国の新刊書店や古書店、私設図書館にブックカフェ、移動書店など、本のある「空間」に着目した一冊である。内部を斜め上から見下ろすアイソメ図で、本と出会う四四の場が紹介される。

 取り上げられている空間を見ていくと、あることに気が付く。書籍の並べ方、本棚の配置やサイズ、窓や床の色合い、道幅。どれひとつ同じものはなく、それでいて丁寧に設計されているのだ。

 本書を片手に、全国各地各地の人と本を繫ぐ空間を旅できたら、どれほど楽しいだろう。つい、そんな空想を巡らせてしまった。(A5判・192頁・2750円・学芸出版社)
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第一六九回 芥川賞・直木賞  贈呈式開催

 八月二五日、東京・帝国ホテルで第一六九回芥川龍之介賞・直木三十五賞(日本文学振興会主催)の贈呈式が行われた。「ハンチバック」(『文学界』五月号)で芥川賞を受賞した市川沙央氏、今回二名の受賞者が出た直木賞は、『極楽征夷大将軍』(文藝春秋)の垣根涼介氏と、『木挽町のあだ討ち』(新潮社)の永井紗耶子氏にそれぞれ賞が贈呈された。

 式では各賞の選考委員が祝辞を述べた。まず登壇したのは芥川賞選考委員の川上弘美氏。「小説は客観性を必要とするもので、作者自身が当事者であればあるほど客観性を持つことが難しくなります。ところが『ハンチバック』はこのマイナスの部分を見事に超克していました」と述べる川上氏は加えて、「市川さんの小説の素晴らしい点だと私が思うのは、惜しみなく自分の持っているものを小説に注ぎ込んでいるところです」と評し、今後の市川氏の活躍に期待を寄せた。

 つづいて壇上には直木賞選考委員の京極夏彦氏が立ち、受賞した二作それぞれを丁寧に評した上で、「時代小説が二本続けてとったからこれからは時代小説なんだ、ということではありません。ほかの候補作も優れた小説でしたが、小説家のたくらみが読者にきちんと届くという意味で二つ頭が図抜けていたという結果の受賞だと思います」とまとめた。

 そののち、各賞の受賞者による受賞スピーチにうつり、市川沙央氏がコメントをした。「読書バリアフリーを訴えております。そろそろできそうですか? 今日は出版界の皆様が勢揃いということで、改めて環境整備をお願いしたいと思いました」と会場に詰めかけた関係者らに投げかけた。続けて市川氏は「怒りだけで書きました『ハンチバック』で復讐をするつもりでした。私に怒りを孕ませてくれてどうもありがとう。こうして今、皆様に囲まれていると、復讐は虚しいということもわかりました。私は愚かで浅はかだったと思いました。怒りの作家から愛の作家になれるようにこれから頑張っていきたいと思いました」と短いながらも力のこもった挨拶を行った。

 次に垣根涼介氏がスピーチを行った。今回の直木賞の候補作の中からたまたま選んで読み進めた本がものすごく面白く「自分も一生懸命書いたけれども、これがきちゃったらしょうがないよねというふうに思っていました」と振り返る垣根氏。「全然脈絡も関係性も説明できないのですが、他の候補作を面白がって読むことができたからこそ、幸いにもこの壇上に立つことができたのかなと思っています」と語った。

 最後に登壇した永井紗耶子氏は、作家デビュー時に「書き続けていきたい」と言っていたと回想し、「選考委員の先生方からの温かい選評と、書店の皆さんからたくさんの声を頂戴し、これが手応えというものかなと感じています。今回、大変大きな賞を頂戴しこれからも書き続けていくことができるので、嬉しく思っています」と受賞の喜びを表した。