【2023.9.15】週刊読書人note.

 新馬場新著『沈没船で眠りたい』

 ある物体を構成する部品がすべて取り換えられた時、それは過去と「同じ」ものだと言えるのか。有名なパラドックス「テセウスの船」が、キーワードとなる物語だ。

 二〇四四年、進歩を続けるAIにより、多くの仕事は機械が担うようになった。しかし社会は幸せになったとはいえず、雇用は減少を続ける一方。ついには、反機械運動団体が死傷者を出す暴動を起こす。その最中に、機械を抱いて海に飛び込んだ女子大生がいた。彼女の名前は奥平千鶴。暴動の首謀者と関与を疑われる千鶴は、なぜ機械と心中を? 謎を解く鍵は三年前、千鶴と美住悠、二人の女性の出会いに遡る。

 すべてが代替可能な残酷な世界において、「自分」を自分たらしめているものは、不変のものはあるのだろうか。物語の最後に響く慟哭は、読者にその問いを突きつける。千鶴と悠に「訪れたかもしれない未来」を想像せずにはいられない、シスターフッドSFである。(四六判・328頁・1925円・双葉社)