【2023.10.13】週刊読書人note.

 毎日新聞校閲センター著『校閲記者も迷う日本語表現』

 二〇一七年に刊行された『校閲記者の目』の第二弾だ。校閲記者たちが気になる/迷う言葉遣いを、実例や読者の感じ方を通し解説していく。

 たとえば何かについての凝り固まった考えに対し、「固定概念」と「固定観念」のどちらを使うべきか。個別の「観念」に対し、「概念」は一般性を持つことから、本書では一面的な考え方には「観念」がなじむと述べられる。他にも、「共感、感動」の意味で使われる「刺さる」は定着しているか。「違和感を感じる」は重言か。「過半数を超える」は直すべきかなど、言葉に関心のある人間ならば一度は疑問に思ったことのある表現が登場し、校閲記者の視点から用法が分析される。

 また、本書は文法上の誤用だからといって、即座に使用してはいけないとは述べない。むしろ、そういった表現が生まれた背景や原因、今後の行方を考察していく。悩ましくも奥深い日本語表現に、魅了されるはずだ。(四六判・304頁・1760円・毎日新聞出版)
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 黒柳徹子著『続 窓ぎわのトットちゃん』

 言わずとしれたベストセラーの続編。今回描かれたのはまさに、トモエ学園に通っていたトットちゃんの続きだ。頃は戦時下。『窓ぎわのトットちゃん』の最後では、親友の犬のロッキーがいなくなり、トットちゃんは一人、満員の疎開列車に乗っている――。続編では、ロッキーの行方や、なぜトットちゃんが一人で疎開列車に乗っていたのかも語られる。おしっこがしたくなったトットちゃんに隣に座るおばさんが伝授したのは……。トモエ学園の茶話会でみんなでちびちび食べたスルメのおいしさ。出征する兵士をバンザイで送り出すと、スルメをもらえることを知って、バンザイをしまくったトットちゃんの「戦争責任」。ドブに落ちて、出征するお父さんと再会、見送ることができた「神さまの計らい」。栄養失調で体中にできたおでき。これまで待望の声がありながら続編が書かれなかったのは、つらい時代の話になるからだろう。

 「徹子さんの今日一日分の食べ物よ」と渡された十五粒の炒った大豆。防空壕で、もうすぐ爆弾が落ちて死んでしまうかもしれないから、全部食べてしまおうか、と逡巡しつつ、パパもママも死んでいるかもしれないと悲しくなりながら、二粒食べた話。

 トットちゃんはいつも前向きだ。時代は切実だが物語は暗くない。不安な疎開列車で初めておトイレ以外でしたおしっこの話を、再会したらママに話さなきゃと考えているトットちゃん。暗い時代でも、どんなふうに考えるのか、生きるのか。心があたたかく重くなる一冊。(四六判・256頁・1650円・講談社)
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