【2023.10.20】週刊読書人note.

 佐月実著『ミナヅキトウカの思考実験』

 産業編集センター出版部が二〇二一年に新たしく創設した「黒猫ミステリー賞」は、広義のミステリー小説を募集する文学賞。第一回目の受賞作となった本書は、著者のデビュー作でもある。

 全五話から成る連作短編集で、語り手は水崎大学数学科の神前裕人。第一話で彼は、目の前で人間の体が燃え上がるという事件に遭遇する。発火の原因は一切不明、とても人間の犯行とは思えない。真相を知りたい神前は、刑事に紹介された人物――水無月透華のもとを訪ねる。しかし神前の期待とは裏腹に、「犯人は日本の怪異『清姫』に違いない」と透華は断言。呆れる神前だったが、しばらくすると透華は、ある推論を経て合理的な真相を導き出す。その推論は、「マクスウェルの悪魔」と呼ばれる思考実験に基づいていた。怪異というオカルト的な要素と、理系的な思考実験を融合させた謎解き。これこそが本作を唯一無二の作品としており、各話で異なる怪異、異なる思考実験が登場する。

 しかも透華にとって、真相を明らかにすることは第一の目的ではない。むしろ怪異の実在性に固執するがゆえに、本人の意に反して、彼女は事件が人間の犯行であると見抜いてしまうのだ。連作ならではの仕掛けにも、ぜひ注目を。(四六判・376頁・1980円・産業編集センター)
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 関根健一著、大修館書店編集部編『無礼語辞典』

 「その言い方、相手を不快にさせていない?」。そう聞くと気になる言葉のあれやこれや。「社長のお話に感心いたしました」(目上の人に向かって使うのは、失礼)、「なるほど、ご説明はよく理解できました」(相手を見下した印象を与える場合がある)、「あの人、性格はいいよね」と、たった一文字「は」が入ることで言外の意味合いが強調されてしまう……。本書をめくりながら付箋を立てていったらたちまち付箋だらけになってしまった!

 『明鏡国語辞典』から生まれた類語辞典シリーズ『品格語辞典』に続く第二弾『無礼語辞典』は、使い方や使う相手によって無礼になる言葉=
「無礼語」を解説、配慮ある言葉選びをサポートする辞典。日常会話や仕事の場面でよく使われる約600語の無礼語を取り上げ、使い方によって無礼になる例文や言いかえ表現も収録。〈軽視〉〈揶揄〉〈尊大〉などの無礼語ラベル、縦軸横軸で無礼の度合いと使い分けの目安を図示した「無礼マップ」、漫画家のいのうえさきこさんによる楽しい挿絵( 1コマ漫画)など、楽しく読める工夫とこだわりが満載。分類一覧、五十音索引付き。敬意と思いやりに溢れた大人のコミュニケーションを目指そう!(四六判・256頁・1980円・大修館書店)