【2023.10.27】週刊読書人note.

 今村昌弘著『でぃすぺる』

 『屍人荘の殺人』の著者による最新作である。小学六年生の三人――オカルト好きのユースケ、優等生のサツキ、転校生のミナは、クラスの掲示係として壁新聞を作成することになる。テーマは、『奥郷町の七不思議』。昨年起きた殺人事件の被害者で、サツキの従姉妹でもある女性が記した七不思議の謎を調査することで、三人は事件の真相に迫ろうとする。

 題材が怪談のため、オカルト要素が強いかと思いきや、そこは今村昌弘。各怪談の謎は、本格ミステリの手法に則って推理される。怪談の中で事実とそぐわない点を見つけ、ユースケは超自然的な論理で、サツキは合理的な説明をもとに解釈し、ミナが二人の見解にジャッジを下すのだ。しかも終盤になるに連れ、恐怖度も増していく。「ジュブナイル×オカルト×本格ミステリ」という帯文通り、それぞれが絶妙なバランスを保って構成された物語である。(四六判・440頁・1980円・文藝春秋)
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 多宇加世・詩/岸波龍・絵『夜にてマフラーを持っていく月が』

 『夜にてマフラーを持っていく月が』は、詩人の多宇加世さんの詩に、作家で書店主でもある岸波龍さんの絵を合わせた詩の絵本。

タイトル頁に続く最初の頁は夜の中、灯りを手にこちらを向いて立つ少年。扉絵をめくると、唐突に詩はこんなふうに始まる。

《ぼく行く/真夜中ただ行く/さんざめぐ幻の声/耳裏と背中に、向い風にし 知ってる/なして歩くがもわがてんなや/なしてってそれはぼくの全身だがら/全霊をかけてぼく行く/真夜中ただ言う/ぼくは、一人、ぽつり、行くと》

多宇加世さんは、山形県酒田市生まれの詩人。第一詩集に『さびていしょうるの喃語』(2021年)、第二詩集に『町合わせ』(2022年)等がある。多宇さんによると、「これは詩集ではなく、一つのストーリー(絵本)なのだ、という気持ちで書いた。」(「文章について(夜にてマフラーを持っていく月が)」https://note.com/tau_kayo)という。

 多宇さんの詩の言葉に、夢のような淡いタッチの絵を描いた岸波龍さんは、本書の「おわりに」で詩についてこのように書く。「現実の世界では毎日のように心が苦しくなるようなニュースが流れてきます。〔…〕その重苦しい言葉をどかしてくれるのには、またべつの対極に位置する言葉が必要であり、それが詩ではないでしょうか。」

 「ぐうむにん/ぐうむりんにい」といった柔らかな擬音、血の通った訛り交じりの詩の言葉は、声に出して読むとさらに深く、身体の内側に染み込むようだ。大人にも子どもにも必要な詩の絵本。(B5判コデックス装・48頁・2970円・双子のライオン堂出版部)