コンビニ人間

書評アイドル 渡辺小春が読む芥川賞

第155回芥川賞受賞作品

コンビニ人間
著 者:村田沙耶香
出版社:文藝春秋
ISBN13:978-4-16-791130-0

 

 『文学界』(2016年6月号)に掲載された第155回(16年上半期)の芥川賞受賞作品。風変わりな主人公古倉恵子(36)は、18年間コンビニ店員を続けていたが、周りからもういいだろうといわれ普通の人間になるために辞職をする。しかし、コンビニ店員として生きているうちに身体の中はコンビニの声が流れ、人間である以上にコンビニ店員のコンビニ人間となっていたことに気づく。
 
 この作品を読んで思い出されたのは図書室の「返しますか、借りますか」という声、カウンターのピッという音。図書委員をやめ、この声が聞こえてきて、とてももどかしくなった時の記憶である。そう思うと小学1年生から毎日のように通っていた図書室で、カウンターや本棚の整理、掃除をこなし、6年生になったころには、私の身体は本棚の順番を正確に覚え、毎日あいうえお順、シリーズ順にならべていた。その仕事ぶりが、読んでいて恵子の様子と重なる。きっと私の身体もコンビニ人間に近いのかもしれない。恵子のコンビニの存在のようにいつの間にか私にとって図書室はとても大きい存在になっていたのだ。
 
 疑問に思ったのは、なぜ18年間もコンビニ店員を続けてきたのだろうか、ということだった。36歳で就職もせずバイトをしている恵子を不思議に思ったからだ。
 
 恵子は昔から奇妙がられる子で、小鳥が死んでいたら「お父さん、焼き鳥好きだから、今日、これ焼いて食べよう」とか、喧嘩を止めてといわれると、相手をスコップで殴ったりして、よく職員会議で呼ばれていた子供だった。父と母を困らせるのが嫌だった恵子は、皆のマネをするか、誰かの指示に従うかして、極力人と話さずに生きてきた。彼女が大人になってたまたま通りかかったコンビニのポスターを見て興味を持ってコンビニ店員になったという。そこで彼女は得意になった誰かのマネで、浮くことはなく、普通の人間になれたと感じてコンビニ店員を18年間続けてきたのだった。
 
 やはり、36歳までつづけていると周りから結婚、就職もしないのかと不審がられるようになり、普通の人間ではないとまた思われるようになってしまう。
 
 普通の人間とは何か。それは、私もよく思うことだ。考えてみると普通は難しい。学校に行って、みんなと同じ生活をしていれば普通だと思う。でも普通だからいいとかそんなことはない。私はアイドルになるときに、どんなアイドルになろうか考えたことがある。人気のアイドルとはどういう人なのだろか。しゃべりが面白い人、可愛い人、それぞれの個性が光っている人が、活躍している気がする。そういう個性を生かして輝いている人をみると、とてもすてきだといつも思う。だから、人気のアイドルなのだろう。まだ、私にどんな個性があるのかなんてわからないけれど、私の持っている個性を生かしてこの先輝けたらいいと思った。
 
 また、作者自身、芥川賞を受賞した時、まだコンビニで働いていたそうだ。コンビニの雰囲気が、この本を読んで伝わってくる。今のコンビニは、コンビニ限定のお菓子や、食べ物がたくさんあって楽しいが、店員を気にしてみるのもいい。今度行ったら、そこにも注目していこうと思う。コンビニという狭い空間に広がる世界。読みやすさもありながら、深く考えられ、読んでいて楽しい作品だ。



★渡辺小春(わたなべこはる)=書評アイドル
五歳より芸能活動を始める。二〇一六年アイドル活動を始め、二〇一八年地下アイドルKAJU%pe titapetitを結成。現在「読書人web」で『書評アイドル 渡辺小春が読む芥川賞』連載中。最近の活動として、官公学生服のカンコー委員会、放送中のNHKラジオ第2高校講座「現代文」には生徒役として出演中。二〇〇四年生。
Twitter:@koha_kohha_