abさんご
書評アイドル 渡辺小春が読む芥川賞
第148回芥川賞受賞作品
abさんご
著 者:黒田夏子
出版社:文藝春秋
ISBN13:978-4-16-382000-2
道に迷ったら、またこの本を一日中、ゆっくりと読み返そう
今回の書評は、第148回に芥川賞を受賞した、黒田夏子さんの「abさんご」。この作新を選んだきっかけは、知り合いから「これ好き!」と聞いて読んでみたくなったからだ。どんな物語だろうと、とてもわくわくした。
まず、驚いたことが四つある。一つ目は、本の開きが右開きだったこと。二つ目は、横書きだったこと。三つめは、一日で読むものではなかったこと。四つ目は、芥川賞受賞した年齢が75歳だったということだ。
今は、80歳か81歳になっているのだろうか。とてもびっくりする作品だ。実際、「abさんご」は、その読みづらさと、年齢で話題となり、一週間で異例の14万部の発行部数だったらしい。
物語は、まず、登場人物の性別時代背景などがわからない。読み手に任されている。なので、私は勝手に主人公がどういう人なのかをイメージしてゆく。
主人公は片親を亡くして、もう一人の親と本だらけの小さな家で仲良く暮らす。15歳の時、新しい使用人が主人公の家にやってきて、親と恋愛関係に発展してしまう。親子関係が崩れ、家にいられなくなった主人公は、とうとう家を出る。断片的に思い出していく、幼いころの思い出。<受像者><しるべ><窓の木><最初の晩餐><解釈><予習><やわらかい檻><旅じたく><満月たち><暗い買いもの><秋の靴><草殺し><虹のゆくえ><ねむらせうた><こま>の15の短編から感情、想い出、丁寧に作り出された物語だ。
初めて、こんなにも長い時間をかけて本を読んだ。何度も往復して、調べて、整理して、ようやく話をつかんで、また読み返して……。確かに読みづらい。でも、つまらないとか、もういいや、とはならなかった。それはきっと文章の一つ一つがとにかく綺麗で、丁寧だったからだ。なんだか、この文章に惚れてしまった。
さて、物語の最初の章<受像者>の文中に、『aというがっこうとbというがっこうのどちらにいくのか』『まよわれることのなかった道の枝を、半せいきしてゆめの中で示されなおした者』、そして最後の章<こま>の文には、『道が岐れるところにくると、小児が目をつぶってこまのように回り続ける』『目をとじた者にさまざまな匂いがあふれよせた。aの道からもbの道からもあふれよせた。』と、どちらもaとbの二つの岐れ道について書かれている。
最初は、後悔という気持ちが大きく、最後はどちらとも正解だという希望の気持ちが強く感じられた。私は、今、受験という一つの、岐れ道に立っている。これから先、もっとたくさんの選択肢のある道が増えてゆくと思うし、きっと迷ってしまうと思う。そうしたら、この最後の文のように、どちらの道でも楽しめるようなワクワクとした道を歩んでいきたい。道に迷ったら、またこの本を一日中、ゆっくりと読み返そうと思う。
<写真コメント:私はこの頃から、歌って踊れる人になるのが夢でした>
★渡辺小春(わたなべこはる)=書評アイドル
五歳より芸能活動を始める。二〇一六年アイドル活動を始め、二〇一八年地下アイドルKAJU%pe titapetitを結成。現在「読書人web」で『書評アイドル 渡辺小春が読む芥川賞』連載中。最近の活動として、官公学生服のカンコー委員会、放送中のNHKラジオ第2高校講座「現代文」には生徒役として出演中。二〇〇四年生。
Twitter:@koha_kohha_