1R1分34秒

書評アイドル 渡辺小春が読む芥川賞

第160回芥川賞受賞作品

1R1分34秒
著 者:町屋良平
出版社:新潮社
ISBN13:978-4-10-352271-3

 

受験という〝試合〟に打ち勝つ

 今回の書評は、第160回芥川賞を受賞した、町田良平さんの「1R1分34秒」(初出・『新潮』2018年11月号)を選んだ。

 あらすじはこうだ。
 
 主人公の〝ぼく〟は、プロボクサーをしているが、成績に伸び悩んでいた。彼の悩みは、ついついネガティブに物事を考えすぎてしまうこと。「試合前に連日みる夢のなかで、ぼくはかならず対戦相手と親友になってしまう」。ビデオ、ジム周辺の環境、ブログ、SNS、よく行く場所や服装まで対戦相手のことを研究してしまうのだ。

 それでいざ試合になると、相手はビデオの中とは違う動きを見せ、ぼくはよく試合相手からの裏切りにあって負けてしまう。いつの間にか、プロとしての夢も、日本チャンピョンから日本タイトル挑戦と、徐々にグレードが下がり、ついには「次の試合に敗けない」になっていった。
 
 ある日、そんなぼくの新しいトレーナーにウメキチという男がやってくる。ウメキチはぼくとはまるで正反対で、明るくポジティブな性格だ。「おれはおまえを勝たせたい。」ウメキチはそうぼくに宣言した。

 それから、試合に勝つために、二人三脚の練習の日々が始まる。ウメキチはぼくを研究し、ボクシングのやり方、練習メニュー、生活習慣に至るまで、一から構築していく――。

 ぼくがウメキチと共にボクサーとして、そして心も、強くなっていく物語。
 
 私の最近の〝試合〟は、受験だった。最初の主人公のネガティブな思考がその時の自分と重なった。文中にある主人公の試合中の気持ちを描いた『でもやるしかない。』『そこまで計画できるような才能と練習濃度を積み上げていない。不安があった。自分なりに一瞬一瞬を懸命に生きた。』という文章は、まさに入学試験で、1時間目の教科に失敗して、2時間目、立て直そうと心を何とか奮い立たせようとした気持ちと同じだった。

 また、ボクシングについて、主人公はこう考えている。「努力と才能がかかっている。」勉強と同じだ。隣の席の子の高い点数を見て、「ああ、やっぱり私には勉強の才能なんてないんだな。」「なんで努力を信じてここまで勉強してきたのだろう。」と思い、私は真っ暗な道を歩んでいた。その中で救ってくれた、私にとってのウメキチは、塾、学校の先生方、友達、家族だった。明るく接してくれたり、親身になって私のことを支えてくれたから、私は、受験という〝試合〟に打ち勝つことができたのだと思う。本当に感謝しかない。

 卒業式も終え、4月から高校生になった。中学校生活を通して学んだことは、人に支えられて今の私があるということ、自信を持てるまで努力をして、強気で何事にも挑戦することの大切さだ。自分の道を自分で切り開いて進むには、沢山の〝試合〟に挑まなければならない。時には、誰かの力を借りながら、努力を惜しまず、強気で戦いたいと思う。


<写真コメント:高校生活、どんなことにも戦っていきます!>

★渡辺小春(わたなべこはる)=書評アイドル
五歳より芸能活動を始める。二〇一六年アイドル活動を始め、二〇一八年地下アイドルKAJU%pe titapetitを結成。現在「読書人web」で『書評アイドル 渡辺小春が読む芥川賞』連載中。最近の活動として、官公学生服のカンコー委員会、放送中のNHKラジオ第2高校講座「現代文」には生徒役として出演中。二〇〇四年生。
Twitter:@koha_kohha_