喪神

書評アイドル 渡辺小春が読む芥川賞

第28回芥川賞受賞作品

喪神・柳生連也斎
著 者:五味康祐
出版社:小学館
ISBN13:978-4-09-352394-3

 

心しびれる幻雲斎の言葉

 今回は、芥川賞では珍しい時代小説、第28回芥川賞を受賞した、五味康祐さんの「喪神」(初出・新潮)を選んだ。
 
 作者の五味康祐さんは、剣豪を扱った時代小説が有名で、当時は、柳生一族について書いていたこともあり、「五味の柳生か、柳生の五味か」と呼ばれるほど時代小説の人気作家であったという。また、太宰治と横綱の男女川と五味の三人は「三鷹の三奇人」とも呼ばれていたというエピソードもある。戦後の新たな時代小説を作り上げた人物である。
 
 恥ずかしながら、本格的な時代小説を読んだのは、この作品が初めてかもしれない。私が時代小説を手にしてこなかったのは、歴史的で、内容が理解しにくそうだったのと、言葉遣いが独特で読みづらそうなイメージを持っていたからだ。実際この話も、時代背景が現代と何百年も違い、慣れない言葉遣いに苦戦し、たった20ページほどの話を理解するのに長い時間が掛かってしまった。しかし、キャラクターが想像しやすく、内容自体は意外とあっさりしていて楽しめた。あらすじはこうだ。

 文禄三年、妖剣、夢想剣と呼ばれる業を持った幻雲斎がいた。幻雲斎に弟子入りした哲郎太は、剣の修業を積んでいく。果たして、その行く先は――。

 主な登場人物は三人。幻雲斎と、その娘のゆき、そして哲郎太だ。私はその中でも仙人のような幻雲斎がかっこよく感じてしまった。

 中でも、かっこいいと感じた、剣術の極意として幻雲斎が哲郎太にかけた言葉を紹介したい。「世に、邪念というものはない。足掻いて求むれば、克己の類いこそそれである。愛しえぬ者は憎むがよい、飢えれば人を幣しても己が糧を求むるがよい。守るべきは己が本能である。欲望を、眞に本来の欲望そのものの状態にあらしめることである。」自分を信じているからこそ、目を閉じた一瞬だけで意識なんかしなくても本能的に繰り出せる夢想剣。生き様にも通じるものがあるように感じ、心しびれるような思いがした。

 みなさんは、師となる人物と出会ったことがあるのだろうか。私はまだいない。でも、以前「週刊読書人」でインタビューさせていただいた、東京大学名誉教授である小林康夫先生の言葉はどれも強く心に残っている。忘れっぽい私なのに、こんなにも言葉を覚えているのは、それほど忘れてはいけない言葉に感じたからだ。師というよりかは、リスペクトに近い。

 最初は、難しそう、と思って手に取ってこなかった時代小説だが、今回、この作品にチャレンジしてみて、時代劇の魅力は登場人物の人間性と、かっこよさがあるのだなと思った。これからは、時代小説も表紙やあらすじで気になったものがあれば手に取って読んでみたい。また、これを機に、歴史小説好きの友達にお勧めの本を聞いてみたいなとも思った。読書の幅が広がった作品だった。


<写真コメント:最近、読書人であった#こういうときこそ本を読もう、で小林先生がおすすめしていた『夏の雨』を読みました。上手く言葉には表せませんが、こういう本を読みたいと思っていたもの出会えた喜びを感じた作品でした。>

★渡辺小春(わたなべこはる)=書評アイドル
五歳より芸能活動を始める。二〇一六年アイドル活動を始め、二〇一八年地下アイドルKAJU%pe titapetitを結成。現在「読書人web」で『書評アイドル 渡辺小春が読む芥川賞』連載中。最近の活動として、官公学生服のカンコー委員会、放送中のNHKラジオ第2高校講座「現代文」には生徒役として出演中。二〇〇四年生。
Twitter:@koha_kohha_