ニムロッド

書評アイドル 渡辺小春が読む芥川賞

第160回芥川賞受賞作品

ニムロッド
著 者:上田岳弘
出版社:講談社
ISBN13:978-4-06-522450-2

 

情報化社会を生き抜く人々の物語

 今月の書評は、第160回芥川賞を受賞した、上田岳弘さんの「ニムロッド」(初出・「群像」2018年12月号)を選んだ。

 ある日、勤めている会社の社長から「金を掘ろうと思う」と話をされ、主人公の中本は、ビットコインを扱う課に配属される。

〝ニムロッド〟と呼ばれている中本の上司、荷室は、鬱病で休職しているが、「駄目な飛行機コレクション」と題したメールを中本に送ってくるようになる。その内容は、題名通り、歴史上に残る様々な理由で失敗ととれる駄目な飛行機の紹介と、それに対しての意見や問いかけだった。

 また、中本と交際をしている女性、田久保は、NIPTの結果を受けて堕胎手術をし、離婚した経験があり、言葉には重みが感じられる。そんな彼女との関わりと、ニムロッドとのメール内での情報の関わり、二つの世界が交差する中で最後に中本が見る景色とは何なのか。情報化社会を生き抜く人々の物語だ。

 ビットコインについてはよく知らない。通貨が仮想とはどういうことなのだろうか。本文には書かれていないが、近い未来、通貨さえ仮想になってしまうということなのだろうか。今の私には現実味がない。

 最近授業で、お金についての評論を読んだ。お金とは、お金の代わりとして成り立っている、ということだった。確かに、私も最近は、コンビニで買い食いをするときはSuicaで買い物をすることが多い。スマホのアプリで払う人もよく見かけるようになってきた。電子マネーは、財布を探したり、お金を数える必要がないのでとても便利である。時代は、紙からデジタルへと世界のお金の形が変化していっているのかもしれない。

 しかし、私は情報化社会があまり好きではない。そこには紙の温かさが感じられないからだ。紙でしか味わうことのできないさわり心地や匂いというものがある。デジタル化された10円にはあの独特の金属のツンとした匂いがないし、重さもない。

 また、最近はSNSでコミュニケーションをとることがとても増えた。周りを見てみるとLINEやSNSでのコミュニケーションが上手な人がモテるのだなあと感じる。私は何だかそれが寂しい。直接話すからこそわかる人の温かさが大事だと思うからだ。私は、こんな冷たくて、浅い、ただただ便利なだけの社会を生きなければならないのかと思うと未来を少し悲観的に捉えてしまう。

「優しい世界。世界はどんどん優しくなっていく。差別も減っていく。出自の差だって、能力差だって、そのうちに大した意味を持たなくなる。どんな人も、それはそれでありじゃない?とやさしく認められる」「これ以上もう年を取りたくないし、働きたくもない。死んでしまいたくはないし、生きていたくもない。たまに消えてしまいたくなるけど、同じくらいたまに刺激が欲しい。そんななんやかんやがいつか叶うとして、」「夢みたいだね」「その夢みたいなことがいつか叶うとして、それが幸福なのかどうか私にはわからない。」その通りだよな、と私もよくこんなことを想ったりもする。この世界、どう生きることが幸福なのか、決してわかることはない。

 ニムロッドの「駄目な飛行機コレクション」を通して、人間の存在価値や意味を、また、情報化社会の冷たさや、人間とは何なのか。深く考えれば考えるほど頭が痛くなるけれど、現代社会に必要な作品だと感じた。


<写真コメント:2020年、ありがとうございました。2021年も宜しくお願い致します。>

★渡辺小春(わたなべこはる)=書評アイドル
五歳より芸能活動を始める。二〇一六年アイドル活動を始め、二〇一八年地下アイドルKAJU%pe titapetitを結成。現在「読書人web」で『書評アイドル 渡辺小春が読む芥川賞』連載中。最近の活動として、官公学生服のカンコー委員会、放送中のNHKラジオ第2高校講座「現代文」には生徒役として出演中。二〇〇四年生。
Twitter:@koha_kohha_