現代社会が抱える歪み 二度読み必須のミステリ短篇集 結城真一郎 / 作家 週刊読書人2022年7月1日号 #真相をお話しします 著 者:結城真一郎 出版社:新潮社 ISBN13:978-4-10-352234-8 作家の結城真一郎氏が、短篇集『#真相をお話しします』(新潮社)を上梓した。第74回日本推理作家協会賞受賞作の「#拡散希望」を含む五作が収録されている本書は、マッチングアプリやYouTubeなど今のツールをミステリに取り入れて現代社会を描く。その理由を結城さんは次のように語る。 「新しい技術や価値観が生まれるときには、従来の常識では考えられない行動原理も生まれると思っています。私の中で、その最たる例が迷惑系YouTuberです。自分の迷惑行為を晒してお金を稼ぐなんて、十年前には考えられなかった。けれど今は、それを楽しむ視聴者がいる。反対に、いけないことだと分かっていても見てみたいと思う層もいます。自己分裂のような気持ち悪さから生じた歪みを、現代社会は抱えている。その歪みを描きたいという気持ちが、作品の発想の原点にはありました。 ただ、私は社会に警鐘を鳴らすために本作を書いたわけではありません。結果的に現代社会の闇を抉るような話もあります。でも、私が比重を置いているのは、読み手を〝びっくりさせること〟です。YouTubeに限らず、身近にあるツールを予想外の方法で使用する人がいるかもしれない。現実と地続きになっている世界を小説で描くことで、読者に新たな発見や驚きをもたらしたいと思っています」。 本書が初の短篇集である結城さんは、短篇と長篇について、「読者に伏線を覚えてもらえる時間軸が違う」と述べる。 「ワンフレーズの伏線だと、長篇では埋もれてしまうことがあります。けれど、短篇は短い分、冒頭に張った伏線を最後まで覚えていてもらえる可能性が高い。だから、長篇と短篇では伏線を印象づけるための見せ方や割く文量が異なります。でも、張ってきた伏線を最後で回収して、驚きに帰結させる。その構造は変わらないので、個人的には両者の難易度に大きな違いを感じることはありません。 収録作の中でも特に伏線を意識して書いたのは、一話目「惨者面談」です。私も主人公と同じ、家庭教師を紹介するアルバイトを大学生の頃にしていたんですね。その経験を思い返しながら、自分なら何が起きるとびっくりするか考えました。冒頭からは予想できない展開をラストに持ってくるために、伏線を張っていった作品です」。 二話「ヤリモク」はマッチングアプリ、三話「パンドラ」は精子提供、四話「三角奸計」は、コロナ禍を反映したリモート飲み会が作品のテーマになっている。 「各作品のタイトルは四文字で、シンプルかつ不穏な響きになるように意識しました。小説を読むことでタイトルの意味が分かったり、読み直すことで初読では気づかなかった発見がある。私自身、読み直す度に発見がある作品が好きなので、どの話もそういう構成を目指しています。 同時に今回は、現実味を帯びた描写にもこだわりました。たとえば二話は、マッチングアプリを当たり前に使用している世代に、共感性羞恥を持ってもらえるくらいのリアルさを追い求めて書いたつもりです」。 「YouTubeを作品に取り入れた五話「#拡散希望」は、子どもの視点で進むミステリです。今の子たちが初めてYouTubeを見たときの衝撃って、きっと僕らより何倍も大きい。事実、なりたい職業一位になるくらいYouTuberに惹きつけられています。だから、YouTuberを題材にするなら子ども視点で書こうと思いました。 今は、私生活の切り売りがエンタメとして成立する時代です。しかも、コメントや再生数、評価によって世間の反応までも可視化される。そんな状況の中で、人間はどこまでやるのか。そこを突き詰めていった話になります」。 最後に、結城さんは以下のようにインタビューを締めくくった。 「ミステリ好きの方はもちろん、あまり本を読まない人にも届いて欲しい一冊です。手を伸ばせばすぐそこにあるものを題材にした短篇集なので、長篇よりは読みやすいのではないかと思います。より多くの人に、ミステリって面白いんだ!と思ってもらえるきっかけになれば、とても嬉しいです」。(おわり)★ゆうき・しんいちろう=作家。『名もなき星の哀歌』で第5回新潮ミステリー大賞を受賞し、二〇一九年に同作でデビュー。著書に『プロジェクト・インソムニア』『救国ゲーム』など。一九九一年生。