生存こそが革命である 起き上がれなくなっている人たちへ 高島鈴 / ライター、アナーカ・フェミニスト 『布団の中から蜂起せよ アナーカ・フェミニズムのための断章 著 者:高島鈴 出版社:人文書院 ISBN13:978-4-409-24152-3 ライター/アナーカ・フェミニストの高島鈴さんが、エッセイ集『布団の中から蜂起せよ アナーカ・フェミニズムのための断章』(人文書院)を刊行した。「自意識過剰な墓標であり、無作為にばら撒かれる感情的な遺言」と著書を紹介した高島さんは、「自分が死んだら、この本を棺に入れてもらうつもりです」と話す。 全八章の構成で、各媒体に掲載した記事や未発表の書下ろし、ブックリストが収録されている本書には、次の一文が繰り返し登場する。 「あなたに生きていてほしい」。 初の単著にこめたメッセージを、高島さんは以下のように語った。 「この本を誰に届けたいか考えたとき、真っ先に思い浮かんだのは「布団の中から起き上がれなくなっている人」でした。生きるか死ぬかの瀬戸際で苦しんでいる人に、とりあえず三日間は生きてもらうための食料と水を詰め込んだ、〝非常事態時の生存パック〟。そういうイメージで収録作を決めたり、執筆したりしました。 私自身、鬱病と診断され、全く動けなかった時期があります。起き上がりたくても起き上がれなくて、布団の上で天井を眺めていました。そこから見える世界は……今まで私が信じていた世界は、あまりにも健康な人中心で動いていた。動けない人たちは、社会の構成員として存在さえ認められない。鬱病になって、身をもって実感しました。 鬱になってよかったとは絶対に言わないし、失ったものもある。けれど病によって、私の視野は拡張され、世界の見え方が変わりました。こんなにも弱者を否定する世界で、いったい誰が生きていけるのか。私と同じように苦しんだり、こんな地獄みたいな世界に対して何もできず、無力感に苛まれている人にこそ、この本が届けばと思っています」。 価値観が大きく揺らいだ高島さんは、「この世界に革命を起こしたい」という思いを強めていった。 「私が目指しているのは、国家のという枠組みの破壊です。家父長制、資本主義を失わせ、われらを阻害するいろいろな構造を破壊する。その先で権力の発生しない共同体をつくり、それを維持するための創造を続けていくためにも、革命が終わることはありません。 でも当面は、あなたに生きてもらうことが目標です。誰かの命を犠牲にしたり、布団の中で動けず、立ち上がれなくなっている人を無理に立ち上がらせるのは、私の目指す革命ではない。生きていることが苦しくて、変わらない世の中が憎くて、でも何の力もない。指一本も動かせない。そんな状態でも、この社会に抵抗したいという意思さえあれば、参画できる。そういう蜂起を、私は「革命」と捉えています。 世の中との摩擦を感じながら、布団の中で生き延びる。その生存こそが、社会や権力への抵抗に、持続的な革命に繫がるんです。各自の持ち場で、ばらばらに生きて、ばらばらな方法で抵抗する。それらを積み重ねた未来に、われらを阻害する大きな力を拒む、もっと大きなうねりが生まれる。そう信じています」。 本書の副題は、「アナーカ・フェミニズムのための断章」である。アナーカ・フェミニズムについて、高島さんは次のように解説する。 「簡単に言うと、アナキズムとフェミニズムのいいとこどりをした思想です。アナキズムにフェミニズムの視点を取り入れて、弱い生をアナーキーな姿勢から擁護していく考え方になります。 アナーカ・フェミニズムの根底にあるのは、あらゆる差別、権力への反対という意識です。アナーカ・フェミニストは、批判・破壊・拒絶・暴力といったマイナスに捉えられがちなものを否定しない。むしろ、それらは「この世をマシな方向へ動かす」ための働きかけです。 アナーカ・フェミニストの先人である金子文子や伊藤野枝も、暴力を否定していません。なぜならふたりの暴力/想像力は、暴力を占有する国家権力――〈男性性〉への叛逆から発生しているからです。それならば、暴力はこの世をマシな方向へ動かす想像力として、われわれの手に取り戻されていい。これも、本書で論じたかったテーマのひとつです」。 アナーカ・フェミニストとして活動する高島さんだが、フェミニズムの中でも「口当たりの良いフェミニズム言説」や共感ばかり求めるシスターフッドの姿勢には、疑問を提示する。 「緩く、共感で繫がる。それが心地よい人もいる一方で、強弱は関係なく、共感の輪が苦しい人もいます。シスターフッドというと、女性同士が肩を組んで笑い合っているイメージがあるし、実際そういうものだと捉えられていたりしますよね。でも、友達の輪に入れず、教室の隅で本を開いていた人にこそ開かれるシスターフッドがあってほしい。背中合わせに背負える目的さえあれば、それだけで連帯できる余地があると、私は主張したいです。 感情的な繫がりがなくても共同体を作れる可能性を示してくれるのが、アナキズムです。その場にいる人に手を差し伸べるのが当たり前になれば、世界はもっと息がしやすくなる。苦しいときに、助けてと言いやすくもなります。 そのためにも、いろんな人の生が無視されている今の社会に、まずは抵抗しなければなりません。渋谷区でホームレスの女性が殴り殺された事件も、入国管理局の事件もですが、人間の命をどれだけ冒涜すれば、そういうことができるのか。人間の命は大事だという、ごく当たり前のことを真剣に、相手の胸倉を摑みながら確認していきたいです」。 最後に高島さんは読者に次のメッセージを送り、インタビューを締めくくった。 「繰り返しになるけれど、私はあなたに生きていてほしい。私のエゴでしかないし、ものすごく残酷なお願いをしていることは自覚しています。けれど、私は私のエゴで、あなたに無事でいてほしい。生きているみなさんと、どこかですれ違える日がくることを、心の底から願っています」。(おわり)★たかしま・りん=ライター、アナーカ・フェミニスト。「かしわもち」(柏書房)、『シモーヌ』にて連載中。『文藝』『ユリイカ』『週刊文春』などに寄稿。中世社会史研究者としては、本名の杉浦鈴名義で方法論懇話会編『療法としての歴史〈知〉』に寄稿。一九九五年生。