書評キャンパス―大学生がススメる本―小松直人 / 城西大学経済学部3年週刊読書人2021年3月12日号また、同じ夢を見ていた著 者:住野よる出版社:双葉社ISBN13:978-4-575-52125-2 私は本書に人生を変えられた。 私が本書に出会ったのは、たまたま友達から映画に誘われ、たまたまその映画の原作者の小説を読んでみようと思い、たまたま本書を手に取った、という偶然が積み重なった結果だ。当時大学一年生だった私は、本というものに触れず、小説と縁のない人生を送っていた。しかし本書を読んで以来、小説の面白さや奥深さに引き付けられ、どっぷりとその世界にはまっていった。この先も私は小説と共に人生を過ごすことになると思う。おそらくあの時手に取った作品が本書でなければ、今のような人生はなかっただろう。 ここまで書くのに、「人生」という言葉を度々使用したが、本書は「人生とは○○みたいなものよ」が口癖の小学生、奈ノ花が、「幸せとは何か」を探す物語だ。奈ノ花は大人ぶっていて小生意気な性格だが、とても真っ直ぐな女の子である。ある日、奈ノ花は国語の授業で「幸せとは何か」を考えることになる。人生経験が浅く、自分の考えに納得できない奈ノ花は、ひょんなことから出会う、三人の人物にアドバイスをもらいながら「幸せとは何か」を考えていく。 この三人は、皆とても魅力的で、個性溢れる人物である。腕に何本も切り傷がある、文学好きな高校生の南さん。賢くて綺麗で「季節を売る」仕事をしている、かっこいい女性のアバズレさん。山の一軒家に住んでいる、お菓子を焼くのが上手なおばあちゃん。 南さんの腕に何本も切り傷があることや「アバズレさん」という名前から読み取れるように、三人の人生は順風満帆というわけではない。奈ノ花とのやりとりの中で、三人が見出すもの、そして「幸せとは何か」を考えるのに、どのようなヒントを与え、アドバイスをするのか、そこが本書の見どころになっている。 奈ノ花は「幸せとは何か」を探す中で、急な仕事で約束を破ってしまう両親やいくじなしと思っているクラスメイトのことを、事情が分からないながらも理解しようと努力する。しかし理解しようとする中で傷ついてしまい、誰とも関わらずに生きていこうと考える。この考えを聞いたアバズレさんが、誰とも関わらないことは間違いを教えてくれる人がいなくなることだ、と自分の経験から奈ノ花に間違いであると諭す。この出来事が奈ノ花の「幸せとは何か」に大きく関わっていく。 私も子供の頃、良く悪くも純粋だった。自分の気持ちに「素直」で、好きなことには嬉々として積極的に取り組み、嫌いなことには嫌な顔をしながら渋々取り組んだ。しかし二十年以上の時間を過ごし、人生経験という名の混濁した出来事の積み重ねによって、自分の「素直」がどこにあるか分からなくなってしまった。そして「素直」が分からなくなったことにより、自分の本当の「幸せ」を見失ってしまった。 そんな時に本書を読み、奈ノ花のように真剣に考え、悩み、躓く中でしか得られないものもあると思った。今はまだ「幸せとは何か」について明確な答えが出せないが、これから出会う人や出来事に真剣に向き合っていけば、きっといつか自分の「幸せ」を見つけることができると、現在は考えている。 このように、この作品の魅力は年代問わず、自分の「幸せ」を考えさせてくれるところにある。高校生の方は南さん、社会人の方はアバズレさん、のように、自分と近い年代の登場人物に自分を重ね合わせて読むことで、より深くこの作品を楽しむことができると思う。ぜひ一度、本書を読み、自分の「幸せ」を見つめてみてほしい。★こまつ・なおと=城西大学経済学部3年。大学図書館で学生アドバイザーという学内活動のリーダーを務めています。趣味は読書で、ミステリー小説を中心に様々なジャンルの小説を読んでいます。