――ポストコロナ時代の大学のあり方を考える――高橋寛人 / 横浜市立大学教授・教育学・教育行政週刊読書人2021年8月6日号2020年の大学危機 コロナ危機が問うもの著 者:光本滋出版社:クロスカルチャー出版ISBN13:978-4-908823-85-5 いまだにコロナ禍は進行中で、大学はそれに翻弄されている。これからの大学のあり方を考えるためには、本書を読んで、コロナ禍に直面した大学の危機を認識することが必要である。コロナ禍が終息しても、以前の大学に戻ることはありえない。ほとんどを対面授業で行い部活などの学生活動の充実を目指すのか、それとも、対面の必修科目を4年次の卒論演習に限定するなど、遠隔授業を主体にして授業料を下げるのか。 本書第1章はコロナ禍により大学が機能しなくなった状況を記している。2020年4月、多くの大学で新年度の授業開始が延期され、学内への立ち入りも禁止になった。かわりに遠隔授業で対応することとなり、教員は急遽オンライン授業のための教材づくりや機器の操作方法の習得に追われた。様々の授業に合わせて数千人の学生が同時に大学の通信回線に接続したために、サーバーがダウンする事態がおこった。学生側ではWi-Fi環境が整っていないために授業に参加できないケースが出てきた。さて、泥縄式で行われたオンライン授業は、これまでの対面授業とどう違ったのだろうか。第2章は「オンライン授業の光と影」である。ここでは、全国の大学で行われたアンケート調査を整理・検討している。実は、オンライン授業の満足度が意外に高い。通学時間が節約できる、自室から授業が受けられる、オンデマンド(授業の録画を見る)の場合は好きな時間に受けられるといった理由からである。 コロナ禍で仕送りが減少、バイト収入も激減して、学生が経済的に苦境に陥っている。大学への入構が禁止または制限されたため、図書館も自習室も利用できなくなった。部活・サークルは活動停止となった。キャンパスを利用できないならば、大学の学費は高すぎる。第3章「深刻化する教育費負担」は、学生たちによる学費減額・返還運動をとりあげて考察している。 第4章は、コロナ禍の中での政府の施策についての検討である。 政府は大学授業のオンライン化をどのようにとらえているのだろうか。文科省は2020年度の新学期の直前、オンライン授業であっても「面接授業に相当する教育効果を有するもの」であれば、卒業に必要な単位としてみなしてよいという通知を大学宛に発した。しかし、その基準についての文科省の見解が明確性を欠いているために、大きな混乱を招いた。 昨年12月、「国立大学法人の戦略的経営実現に向けた検討会議」の最終報告書が出された。これはコロナ禍前の「経済財政運営と改革の基本方針2019」に基づくもので、国立大学を「社会変革を駆動する真の経営体」にかえるとしている。この提言は、国立大学を自ら稼ぐ経営体に変質させるものである。大学が教育研究のほかに資金獲得のためのビジネスを行うことが不可避となりそうである。 第5章は「ポストコロナの大学像」について、大学の目的とは何か、学生の学習権をいかに保障するかといった原理に立ち返って考察すべきことを主張している。確かに、大学が大きく揺らいでいるときこそ、大学の本質的な意義を確認することが大切であろう。(たかはし・ひろと=横浜市立大学教授・教育学・教育行政)★みつもと・しげる=北海道大学准教授・教育学・高等教育論。中央大学大学院文学研究科博士課程退学。著書に『危機に立つ国立大学』、共著に『新基本法コンメンタール 教育関係法』など。一九七〇年生。