――現場の声を国や社会に届けていくために――坂爪真吾 / 一般社団法人ホワイトハンズ代表理事週刊読書人2020年5月29日号(3341号)子づれシングルの社会学 貧困・被差別・生きづらさ著 者:神原文子出版社:晃洋書房ISBN13:978-4-7710-3300-9私は、性風俗店で働く女性のための無料生活・法律相談事業「風テラス」を運営している。日々、全国からメールやLINE、ツイッター経由で寄せられる相談に対して、弁護士とソーシャルワーカーと連携して、相談支援に当たっている。 今年2月以降、新型コロナウイルス感染症の影響で、風テラスの相談者数が激増している。2020年の相談者数は、5月現在で1400名を超えている。 生活保護に該当するような困窮した生活を送っているにもかかわらず、性風俗業界に対する社会的な差別や偏見もあり、行政や福祉に相談することをためらっている女性も多い。 精神疾患などの障害・病気を抱えている女性、まだ幼い子どもや高齢の親を抱えて、所持金が底を尽き、明日の食費にも困っているシングルマザーも少なくない。 そんな中、厚労省の「新型コロナウイルス感染症による小学校休業等対応支援金(委託を受けて個人で仕事をする方向け)支給要領」において、風俗営業等関係者が不支給要件の対象になっていることが、大手新聞等のメディアやSNS上で、大きな批判の対象になった。 「風俗で働いているから」という理由だけで、学校を休んだ子どもの世話で働けなくなっても、支援金を一切もらえない。 日々現場で支援に当たっている私たちとしては、この要件自体が憲法14条(法の下の平等)に違反するものであると同時に、合理的根拠のない明白な職業差別であり、ただでさえ行政に対する相談しづらさを抱えている女性たちをさらに追い詰めるものである、と考えて、加藤勝信厚生労働大臣に対して、上記の支給要領において、風俗営業等関係者を不支給要件から外すことを要望する署名キャンペーンを行った。 私自身も、NHKニュースウォッチ9に出演し、支援の最前線にいる立場から、働く女性への理解と社会的支援の必要性を訴えた。 多くの声を受けて、政府が動いた。4月6日、菅義偉官房長官は「(助成金の支給)要領について見直したい」と述べ、7日には加藤厚労大臣が支給要領において、風俗営業等関係者を不支給要件から外すことを発表した。 風俗営業等関係者の権利を守るための署名キャンペーンにわずか数日間で1万人近い賛同者が集まったこと、そして実際に国が動いたことは、私自身にとっても大きな驚きだった。 キャンペーン終了後、『子づれシングルの社会学』を手に取った。著者の神原文子氏は、子づれシングル女性が直面している女性の貧困や被差別などの生きづらさを理論的に考察しながら、彼女たちと子どもたちが生きやすい社会の実現を目指して問題提起と政策提言を行っている。 母子世帯の貧困の要因、重複差別の問題、生きづらさを生起させる諸要因、離婚前と離婚後の生きづらさなど、まさに性風俗の世界で働くシングルマザーの抱える課題と同様の構造を鮮やかに描き出しており、自分たちの支援活動やソーシャル・アクションを理論的に支えてくれるバックボーンを得たような気持になり、とても勇気づけられた。 著者の主張する「ひとり親世帯控除」の創設をはじめとした公的支援が整備されるまでは、まだまだ時間がかかるだろう。しかし、今回の署名キャンペーンの成功にみるように、性別や職業、ひとり親になった理由によって区別されることなく、全てのひとり親が同等の待遇を得られる社会の実現に向けて、現場の声を国や社会に届けていくことは、十分に可能であるはずだ。そのための勇気を与えてくれる本書は、ひとり親支援に関わる全ての人に読まれてほしい。(さかつめ・しんご=一般社団法人ホワイトハンズ代表理事) ★かんばら・ふみこ=神戸学院大学現代社会学部教授・社会学・人権問題。著書に『子づれシングルと子どもたち』『家族のライフスタイルを問う』など。