――税金・年金・投資から社会問題までバランスよく――飯田泰之 / 明治大学政治経済学部准教授・経済政策・マクロ経済学週刊読書人2021年7月16日号誰も教えてくれないお金と経済のしくみ著 者:森永康平出版社:あさ出版ISBN13:978-4-86667-284-7 経済学者という職業柄「経済について勉強したいのですが何を読めばよいですか」という質問を受けることがあります。しかし、この単純極まりない質問に答えるのは、なかなかに難しい。その人にとって、知りたい「経済」の内容が全然違う。学びたいのは経済理論なのか(そういうひとはまずいない)、為替や株式投資の入門書なのか、税金対策なのか……。さらにやっかいなことに、このような漠たる質問をする人ほど、自分が経済の何を知りたいか自体がよくわからないというケースが多い。そのため、たいていの場合、「書店などで自分に合う本を捜してみては?」といったさらに漠然とした回答でお茶を濁すことになるわけです。 森永康平氏による『お金と経済の仕組み』はこの手の「何か経済のことを勉強しなければいけないけど、経済の何を知りしたいのか自体がわからない」という読者におすすめできる一冊です。 経済に関する興味は、個人的関心と社会的関心に大別することが出来るでしょう。前者は、自分が楽したい、稼ぎたい、得したいから経済を学びたいというもの。後者は経済に関連した政策や社会問題の構造を知りたいというもの。このふたつの興味・関心に同時に応える本を一人の著者が書くことはなかなか容易なことではありません(特に学者には荷が重い)。こんなときこそ経済アナリストの出番でしょう。 同書は、お金「使う」「稼ぐ」「蓄える」といった個人的な行動に関する解説からスタートします。この部分は、直接役に立つ内容を意識しすぎると薄っぺらな記述に、内容の正確さにこだわりすぎると単なる用語解説集や三流の道徳講義のようになってしまう。そのボトルネックをうまくすり抜けるバランスある記述は、読者自身にとっての学びになることはもちろん、誰かに経済の説明をする際の有用なアンチョコ本にもなってくれるでしょう。 なかでも、税金・年金について誤解を恐れず特定ケースでの支払や受給金額を明確に示しているところ、ポジティブな意味での投資とギャンブルの共通性に言及しているところなどは高い有用性がある。この手の解説って、ついつい例外やクレームを恐れて具体的数字を濁してしまいがちなんですよね。 また、このような個々人にまつわる経済問題の解説に終始せず、記述は徐々に社会的問題としての経済に移行していきます。このテーマのシフトが章ごとではなく、節毎にいわばシームレスに進んでいくとことも本書の特徴と言って良いでしょう。 個人的な利益に関係する解説を読んでいたら、いつのまにか社会問題について考えることになっている。このような連続性があるからこそ、本書は「経済に関心はあるけれど、経済の何に関心があるかはわからない」という人への肇の一冊として推薦しやすいところでもあります。(いいだ・やすゆき=明治大学政治経済学部准教授・経済政策・マクロ経済学)★もりなが・こうへい=金融教育ベンチャーの株式会社マネネCEO、経済アナリスト。複数のベンチャー企業のCOOやCFOも兼任。日本証券アナリスト協会検定会員。著書に『MMTが日本を救う』、共著に『親子ゼニ問題』など。一九八五年生。