書評キャンパス―大学生がススメる本― 貝沼晃太朗 / 獨協大学経済学部3年 週刊読書人2022年4月15日号 友情 著 者:武者小路実篤 出版社:岩波書店 ISBN13:978-4-00-310504-7 脚本家としての成功を夢見る二十三歳の野島。彼はある日、芝居を見に行き、そこで友人の仲田の妹である杉子と出会い、その美しさに強烈に惹かれる。それも結婚すら意識するほどに。それからというもの、野島は杉子と出会えたとき、挨拶を交わせたとき、彼は別人のように快活になる。反対に杉子との関係が思い通りいかなければ、不安にもなる。 そんな野島には大宮という親友がいる。年齢は野島より三歳ほど上で世に認められ始めた小説家である。実家は裕福であり、運動も出来る。野島とは対照的とも言える人物だ。野島は大宮が雑誌に小説を発表することを少し寂しく思い、一種の嫉妬や不安を感じるが、大宮はその心象を察して野島をフォローする一言を必ずかける。また、野島が杉子を好いていることを知れば、全力で応援する。大宮はそういう男だった。野島は、大宮の別荘がある鎌倉で、杉子や他の友人たちとひと夏を過ごすことになる。楽しい日々であるが、肝心の杉子との距離は縮まるようで縮まらない。野島、大宮、杉子、大宮の従妹である武子の四人でトランプをした際、杉子は大宮のことを意識しているようであった。一方、野島が風邪を引いても杉子は見舞いに来ることはない。杉子はどうやら大宮のことを好きになってしまったのではないかという考えが野島の頭をよぎる。大宮は杉子の気持ちをそれとなく察し、野島への義理からパリへの留学を決める。がその後の真実は、大宮と杉子の手紙によって明かされる。本書では、野島は冴えない男として描写されている。二十三になってもまだ女性を知らない彼は恋愛に対して夢を見て、思う気持ちが制御できないほど膨らむあまり、杉子という本来の彼女が見えていないように思える。そんな野島が恋愛を成就することは難しいだろう。しかし、野島ほどではなくても自分勝手に相手を想う気持ちは、恋愛をしていく中で、誰しも露わになってしまうのではないだろうか。また野島の、自分よりも評価されている同業者をひがみ、友人である大宮にさえ嫉妬し、苦悩する姿は、決して好青年には見えない。ただ、完璧ではない野島だからこそ、私たち読者は共感してしまう。 友情と恋愛は、少なからずほとんどの人が経験するものだ。時にその素晴らしさを大いに感じ、時に何にも手が着かないほど悩む。本書はその友情と恋愛という普遍的なテーマを、プラトニックに爽やかに描いた作品であり、まだ自分の社会的な立場や精神、未来が完全には形成されていない、学生の私たちが読むことに価値があるのではないか。 人が恋愛するときに使う力はとても膨大で強力と思う。失恋をすると突然その力の向かう対象がいなくなってしまい、力は行き場を失う。しかし、その力を別の対象、勉強や仕事、趣味などに向ければきっと失恋も良い経験だったと振り返ることが出来る。それは男女問わずそうであると思う。著者もこう述べている。「失恋するものも万歳、結婚する者も万歳」。まさにその通りだろう。★かいぬま・こうたろう=獨協大学経済学部3年。映画をみることが昔から好き。将来はメディア関係の仕事に関われたらなとなんとなく思っている。今はやりたいことをやっています。