――歴史、起源、性格、茶の湯空間、畳、日本人の暮らし方を丁寧に論じる――大竹由夏 / ものつくり大学講師・一級建築士・デザイン学週刊読書人2021年1月8日号和室学著 者:松村秀一/服部岑生(編)出版社:平凡社ISBN13:978-4-582-54468-8 和室とは何か? どう定義できる空間なのか。先人たちは和室に何を求め、何を創造してきたのか。住まいに入る時には靴を脱ぎ、素足で歩く。フローリングに絨毯を敷いて寝転がり、ソファにもたれ、床座の生活をする。このような暮らしは現代でも珍しくない。 中世において和室は、武家住宅に現れた貴賤同座の自由で平等な空間であった。一方、近世においては細かな意匠ルールが設定された封建的な空間であった。また茶の湯空間として、建築の内と外が緩やかに繫がり、自然との共生を試みられる空間でもあった。明治においては欧米文化の積極的な導入を受け入れながらも、生活上の必要から和室は消えることはなかった。庶民が暮らす都市部の長屋には畳が敷き詰められた。畳の普及が十分でなかった地方の農家にも座敷には畳が敷かれた。上流層や中流層の洋風の邸宅にも、居間などに畳が敷かれた。第二次世界大戦後、アメリカ文化の影響を強く受け日本人の暮らしが大きく変化しても、団地の居間には畳が採用された。建築家の活動が積極的に展開され、畳のない和室や基本寸法でない畳も提案された。座面の低い椅子や胡座のかける椅子、伝統素材である竹を用いた家具など、インテリアデザインも展開された。 和室は洋風化、近代化の波の中でも時代に合わせて変容を続けながら、日本人の暮らしと共に発展してきた。しかしながら、この十年ほどで住宅に設置されることが大幅に減少している。当たり前の身近な存在から旅行やメディアで体験する、非日常的な伝統的な空間となりつつある。このままでは、日本の住まいから和室は姿を消してしまうのではないか。 日本では国民の多くが、畳の枚数でおおよその広さを感覚的に想像できる。しかしながら近年、和室の減少により畳の部屋で暮らした経験のない人が急増している。世界的にみてとても珍しい、この寸法感覚の共有が現在難しくなりつつある。 本書は和室とは何かの問いかけから始まり、歴史、起源や性格、茶の湯空間、畳、日本人の暮らし方、和室の世界遺産的な価値について丁寧に論じられている。編者らによる「日本建築和室の世界遺産的価値に関する建築学的総合研究」の成果にも基づいており、建築を専門とする方にも十分読み応えがある。また、建築を専門としない方にも和室の奥深さ、素晴らしさが十分に伝わるであろう。 巻末には和室の理解を深める建築学、社会学、民俗学、美術史学分野の書籍、和室が重要な舞台になる小説、漫画、映画や和室に関して建築的・文化的側面から言及している評論や随筆が百作品紹介されている。編者らの目標は、和室の世界遺産登録。ぜひ、この目標を一緒に共有して欲しい。(おおたけ・ゆか=ものつくり大学講師・一級建築士・デザイン学)★まつむら・しゅういち=東京大学大学院工学系研究科特任教授・建築構法・建築生産。一九五七年生。★はっとり・みねき=千葉大学名誉教授・都市計画。NPOちば地域再生リサーチ代表。