著者から読者へ入矢玲子 / 中央大学図書館司書週刊読書人2021年3月5日号プロ司書の検索術 「本当に欲しかった情報」の見つけ方著 者:入矢玲子出版社:日外アソシエーツISBN13:978-4-8169-2851-2「ドゥルーズが書いた『La betehumaine(獣人)』を探して」と依頼されたことがあります。「『獣人』はゾラの小説では?」と思いましたが口には出さず、自分のトリビア知識を総動員して糸口を探しました。熟練の司書ならみなそうするものです。 フランスの本にはしばしば長大な序文がつくことがふと頭に浮かび、ゾラの『獣人』をフランス国立図書館目録で調べてみました。はたして「序文ドゥルーズ」の版があります。「ゾラの本に寄せたドゥルーズの序文ですね。これです」と一件落着したのでした。 ウェブが未整備だった時代の例ですが、同様の依頼は今も絶えません。 私の仕事はそんな難しい本や情報を探すこと。レファレンスライブラリアン(調査専門司書)と呼ばれています。「森鷗外の漢訳聖書」「太宰治が東京文理科大学の学生新聞に寄せた小作品」といった未解決の宿題もまれにありますが、依頼者に鍛えられて検索のワザを蓄積してきました。 それを体系的にまとめたのが本書です。 まずはノウハウ本として役立つでしょう。便利なサイトを網羅し、使うコツを示しました。 探し物は見つけてから先が大事です。検索はさっさとすませるのがベストであり、そのスピードは確実に向上します。 同時にノウハウ以上の三要素が身につきます。 一つ目は探し方の「構え」です。上手な検索は、無数のトリビア知識の集積結果です。プロは知識を組み合わせ、優先順位をつけて当たっていきます。その過程をなんとなく理解するだけで、検索は上達するのです。 表層的な検索なら誰でもできる今は、この「構え」の有無で知的探求力に大差がつきます。 二つ目は「図書館力」です。図書館は本の館から、調べ物をサポートする「情報館」に進化しています。なのに使いこなす人は多くありません。レファレンスライブラリアンに至っては存在さえ知られず、絶滅危惧種と呼ばれています。 図書館の知られざるパワーをもっと生かしてほしいと、私は強く願っています。本書は、そのための図書館トリセツでもあるのです。 三つ目は「情報リテラシー」です。フェイクに惑わされないファクトチェック能力など、情報処理の総合力が高まるように書きました。 なぜなら、たとえば本のメタデータですら揺らぐことがあるからです。「日本の書籍の国内メタデータに疑問を感じて海外サイトを見たら、ドイツの日本語専門司書がつくったデータのほうが優れていた」などという話を時おり聞きます。 本書で情報リテラシーの重要性をより強く意識し、磨きあげてください。 日本の知的探求力と知的生産力を、情報探しの面から少しでも底上げしたい。それが私の欲張りな執筆動機です。(いりや・れいこ=中央大学図書館司書)