長谷川萌 / 専修大学法学部法律学科2年週刊読書人2020年4月3日号(3334号)結婚と家族のこれから著 者:筒井淳也出版社:光文社ISBN13:978-4-334-03927-1私がこの本を読んだのは、大学入試に必要だったからだ。私が受けたのは普通の筆記試験ではなくAO入試というもので、この本の内容についての三つの設問に答えるものだった。それらの設問に対する答えを作るために一ヶ月かけて何度も読んだし、興味のある分野でもあったので、今でも内容は頭に残っているつもりだった。しかし、改めて読み直し、当時注目していなかった部分にも著者が言いたかったことが書いてあったことに気がついた。著者は、結婚や家族について書かれている本でも、「人々が最初から持っている、家族についての多少偏った見方を補強するようなもの」が多く、「バランスのとれた、広い視野から理解しようという本はそれほど目立」たないとして、この本は広い視野から理解を深められる本になることを目指して執筆したと述べている。私は、日本では古くから家父長制がとられていたと思っていた。しかし著者は、日本の古代社会には自由な恋愛が存在していたと述べた上で、古代の自由な恋愛から子供が誰と結婚するかまで家長が決める家父長制への変遷、そしてその解体に至るまでの経緯を論理的に説明しようと試みている。また、家事や育児などの担い手の問題も様々な視点から提起している。無償労働を担う時間量に男女差があることは感覚としてわかってはいたものの、データを見ることで、いかに日本が突出して女性に無償労働の負担が偏っているかがわかった。さらに、現代の日本ではあまり見かけないために考えが及ばなかった、国際的な経済格差を利用して、家事使用人を雇って対処しているために起こる諸問題に関しても、放置してはならないと気付かされた。しかし、これらのケア労働の担い手の問題の、解決が難しい理由についても考察されており、本当に一筋縄ではいかないものだと感じざるを得なかった。そして、一番大きな発見があったのは以下の部分だ。著者は、共働き社会がさらなる経済格差をもたらしていると説明し、その原因を「アソータティブ・メイティング」、簡単に言えば、所得の高い男女同士から順に結婚していくことになるという概念を用いて解き明かしている。所得の高い人と低い人が結婚する社会になればこの問題は解決されるが、現実にするのは難しいということが理由とともに述べられている。結婚相手の選択はプライベートの問題であり、本来、公的介入は許されるべきではない。しかし、現実的には政府が解決策を講じるほかないため、高所得者は低所得者と結婚しろ、などと命令するのではなく、「アソータティブ・メイティングしても『儲からない』」制度を作るべきだと説かれている。これはほとんどの人が聞いたことのないであろう話であり、課税単位を個人ではなく世帯にする制度の話など、難解な部分もあるが、具体例を添えて想像や理解がしやすいような工夫がされている。この本はですます調で書かれていて具体例やデータも交えて説明されているため、読みやすい。そして、現代社会に生きる我々にとって重大でありつつすぐには解決しない、考え続けなければならない問題がたくさん提起されているため、一人でも多くの方に一読していただきたい。★はせがわ・もえ=専修大学法学部法律学科2年。男女差別や児童虐待など社会問題に興味を持ち、法律を始め広い視野で捉え考えるため、専修大学社会科学研究会に所属し、法学の基礎固めにも励んでいる。