――この気候変動に対し、自分はどうすべきか――亀山康子 / 国立研究開発法人国立環境研究所・社会システム領域・領域長週刊読書人2021年4月16日号気温が1度上がると、どうなるの? 気候変動のしくみ著 者:K・S・シュライバー(文)/S・マリアン(絵)出版社:西村書店ISBN13:978-4-86706-017-9 気温が1度上がるのがどれほど大変なことなのか。今から30年ほど前、大学生だった私は、初めて地球温暖化(気候変動)の話を聞いた。二酸化炭素などの温室効果ガスの排出量を減らしていかないと、地球の平均気温が4度から8度も上昇するという。当時はまだ1度上昇することの深刻さを分かっていなかった。海面上昇や熱波などの予測結果は出ていたが、それを感覚として理解できていなかったのだ。1日の昼夜の気温差が10度以上ある日も珍しくないのだから、1度くらい上がったところで大したことないのではないか。北極海の氷が少し溶けたりサンゴが死滅することが私たちの日常生活にどれほど悪影響を及ぼすというのか。そういう意見に対して、当時の私は説得力を持って説明する術を持たなかった。 しかし、1日の気温差と地球の平均気温とでは話が違う。現在、200年前と比べて1度上昇した地球に実際なってしまったわけだが、起きていることは単に気温上昇にとどまらない。海から水が蒸発して水蒸気となる量が変わると、雲のでき方が変わる。降水量が変わる。気流や海流が変わる。それを原因として世界各地で異常気象が発生している。大型台風、集中豪雨、干ばつによる食料不足、異常乾燥による森林火災。これらの変化を目の当たりにし、これまで地球という星が本当に奇跡的に生態系をはぐくむのに適した状態を保てていたことを実感する。1度上昇しただけでもこれだけの変化が起きるのだ。これからさらに上昇したら、どうなるのだろう。 このような変化が目の前に晒されているにもかかわらず、問題は解決方向に向かっていない。世界の温室効果ガス排出量は、まだ増え続けている。ようやく日本も排出量実質ゼロを目指すと決意したが、ゼロにしても大気中の濃度は増えないだけで減るわけではない。本当に元の状態に戻すなら、大気中から温室効果ガスを撤去していかなくてはならない。それほど現状はぎりぎりのところまで来てしまった。 こどもたちは、これからの地球を生きていく人々である。だからこそ、こどもたちが気候変動について正しく理解しておくことが必要だ。大人でも理解が難しいこの話を、こどもたちにどう伝えられるのか。こどもたちの関心をひく伝え方が求められる。 本著作は、上記の観点からよく考えて作られた絵本だ。地球の話、気候の話、原因となっている温室効果ガスの話、排出量の増減の原因となる人間活動の話。文字だけだと難しくて読む気になれないような内容が、魅力的な絵と分かりやすい文章で伝えられている。小学生高学年であれば十分読めるし、大人が読んでも楽しめる。 特に興味深かったのは、本の最後の方に取り上げられている、どうすべきかという部分だった。若者たちが声をあげること、さまざまな団体の活動に参加して木を植えること、自転車専用レーンを整備して活用することなどが紹介されている。この本の原文の執筆者と絵の担当者はどちらもドイツ人である。もし日本人が同様の絵本を作ったら、省エネや節約が最初に取り上げられていたのではないか。「使っていない部屋の電気はこまめに消しましょう」「エアコンの設定温度は何度にしましょう」といった掛け声は、排出量削減にとって重要であることに異論ないが、活動が個人の中で閉じてしまう。自分がこの問題を懸念しているということを他者に向かって表明することや、仲間を増やすことの重要性が、この本を通じて日本の若い読者に伝わることを願う。(松永美穂訳)(かめやま・やすこ=国立研究開発法人国立環境研究所・社会システム領域・領域長)★K・S・シュライバー=作家兼翻訳家。ドイツとイタリアでドイツ文学を学び、各地のオペラハウスで仕事をする。二〇一六年からフリーに。★S・マリアン=ドイツのフリーイラストレーター兼作家。