書評キャンパス―大学生がススメる本― 杉本あすか / 大阪樟蔭女子大学学芸学部国文学科3年 週刊読書人2022年4月1日号 100万回死んだねこ 著 者:福井県立図書館(編著) 出版社:講談社 ISBN13:978-4-06-525892-7 この世には、一生では読みきれないほどの本があり、今も増え続けている。そして、それぞれの本に付けられた「タイトル」は、本を探す最初の手がかりとなる情報だ。時としてそれは人々に、少し間違ってインプットされる。本書は、司書が、図書館利用者から尋ねられた「覚え違いタイトル」を集めた本である。 私は、司書の資格を取るための授業を履修している。勉強を進めていく中で、福井県立図書館が覚え違いタイトルを公表しているサイトを発見し、勉強の一環として頻繁に閲覧していた。その内容を厳選し、さらにサイトには載っていない内容も加えて書籍化されたのが本書である。 表紙をめくると、何かが挟まっていることに気がつく。かつて図書館で使われていた小さな貸出カードを模したものが閉じ込まれているのだ。この本を紙媒体で購入して、いきなりのサプライズであった。 本書では、覚え違いタイトルが利用者の質問の形で、まず提示され、その後、司書が突き止めた本の正しいタイトルが現れるという、クイズ形式で読み進められる。『トコトコ公太郎』が実は『とっとこハム太郎』だったというのは、質問を受けた時点ですぐに連想できそうだ。また、これより難易度が高い質問の中には、「昔からあるハムスターみたいな本を探してるんだけど……」というものがある。この場合は質問を受けた後、「『昔から』ってどれくらい昔ですか?」「『ハムスターみたい』ってどういうことですか? 動物が出てきますか?」など、より具体的な本の情報を引き出すようなインタビューを重ねる。さらに、『ブレードランナー』という覚え違いの本来のタイトルを導き出すには、インタビューの技術に加え、そのやり取りから連想される知識があるかどうかが勝負どころとなっているようだ。これらの覚え違いの答えは、ぜひ本書を読んで確かめて頂ければ幸いである。 また、突き止めた本のタイトルの横には、覚え違いをやさしく受けとめながら、本の紹介が書かれている。本のジャンルは多岐にわたるが、どの紹介をみても「読んでみたい!」と思わされる。本書片手に図書館を訪れて、紹介されている本の実物を探しつつ、書架に並んだ新たな本と出会うのも面白そうだ。 利用者が求める本を探す手伝いをする仕事は、図書館業務の中の「レファレンスサービス」にあたる。この「レファレンスサービス」には、さらに深い調査を行うものも含まれている。一例として、「ドッジボールの〝ドッジ〞って何?」という質問が取り上げられており、答えとなり得る情報を提供するまでの過程が詳しく紹介されている。インターネットの中でも信憑性の高い情報と、本に載っている情報をうまく掛け合わせながら答えまで辿り着く様子から、図書館のカウンターの奥で行われている仕事が見えてくる。 本書を読んで、私は、より実践的な感覚で司書の技術の見事さをみることができた。同時に、これまで学んできた司書の技術がどのように仕事と繫がっていくのかも再確認できた。「覚え違いタイトル」は、図書館の使い方の中でも入口の方にあたるのかもしれない。その先には、より広くて興味深い図書館の世界が待っている。★すぎもと・あすか=大阪樟蔭女子大学学芸学部国文学科3年。古典文学ゼミ所属。図書館司書と学芸員を目指して勉強中。図書館業務の中でも、図書の選定作業や、図書を紹介するPOPの作成に関心がある。