書評キャンパス―大学生がススメる本― 桑原 誠 / 名古屋経済大学法学部4年 週刊読書人2022年6月3日号 コンビニ人間 著 者:村田沙耶香 出版社:文藝春秋 ISBN13:978-4-16-791130-0 四角柱から得体の知れない物体が出ている表紙。「コンビニ人間」というタイトルも不思議だ。異彩を放つ表紙とタイトルに好奇心が湧いて本書を手に取った。本作で芥川賞を受賞した当時、著者の村田沙耶香さんは、執筆活動をしながらも週に3日はコンビニで働いていた。だからこそ、ストーリーの舞台となるコンビニをリアルに書くことが出来ているんだと思った。 主人公、古倉恵子は36歳の独身女性で、定職につかず、大学生の時から続けているコンビニアルバイトで生計を立てている。 古倉は幼少期から他の子と考え方が違っていた。幼少期に死んだ小鳥を見つけ、母にこう言った。「お父さん、焼き鳥好きだから、今日、これを焼いて食べよう」 小学校に入学したばかりの頃に、体育の時間、男子2人が取っ組み合いの喧嘩をしていた。そして「誰か止めて!」との声が聞こえ、他の生徒ならば、先生を呼ぶなどの対処をしただろうが、彼女は近くにあった用具入れからスコップを取り出して、頭を殴って止めたのだ。 そうした一般的でない行動を繰り返すとともに、父と母の悲しむ顔を見てきた彼女は、指示されなければ動かないことを心に誓った。コンビニではマニュアル通りにしていれば「店員」になれる。しかしコンビニの外に出れば、友人に「結婚してないの?」「定職についてないの?」と社会の「マニュアル」で干渉される。古倉にとってコンビニで働くことは、みんなと同じように普通になれることだった。 ある日、コンビニに新人のアルバイトスタッフがやってきた。白羽という35歳の独身男性である。白羽は指示された仕事をこなせない。遅刻も無断欠勤もするので、結局バイトを首になる。ところがコンビニでの勤め帰りに、古倉は店の外で女性客を待ち伏せしている白羽と出くわすのだ。白羽に古倉は待ち伏せを注意し、話す場所をファミレスへと変えた。白羽はルームシェアしていた家を追い出されたため、帰る場所がないと話す。うだうだ煮え切らない白羽を、面倒になった古倉は強引に自宅に連れ帰る。白羽は婚活目的でアルバイトをしていたし、古倉は友達や家族に干渉されたくなかったので、「婚活だけが目的なら私と婚姻届けを出すのはどうですか?」と提案する。 妹と友人に「家に男性がいる」と伝えると祝福の声が挙がったため古倉は、コンビニと同じように、社会の「マニュアル」に沿って生きていれば、皆から喜ばれるのだと理解した。ここから白羽は、古倉に寄生するため、古倉の正社員の求人を探し、職につかせようとする。ところが…。 本書で印象に残った文章がある。白羽は男は狩りをし、女は子を産むという縄文時代にも「マニュアル」があったことについて、よく口にしている。そのことについて古倉が答えているセリフ。「コンビニに居続けるには『店員』になるしかないですよね。それは簡単なことです、制服を着てマニュアル通りに振舞うこと。世界が縄文だというなら、縄文の中でもそうです」。これはフィクションではなく、筆者の周囲の現実にも当てはまることだと思った。属しているグループの考えや価値観と自分が異なれば、仲間はずれにされる。そのコミュニティにおける存在価値を保ち、コミュニティの基準に沿う言動をしなければ、排除されてしまうのだ。 筆者は大学4年生であり、就活生でもある。就活に人生をかけるように活動していなければ、他の学生、大学の先生に就活のことについて干渉される。誰からも干渉されないために、就活をしている。誰にでも属しているグループはある。私のようにグループに従っている人がほとんどだろう。本書は日常についても、様々に感じさせてくれた。★くわはら・まこと=名古屋経済大学法学部4年。年間毎日欠かさず続けていることは、日記を書くこと。それほど書くことが好きです。今年になって、書く練習を始めました。文章スキルを上達させて、人の役に立ちたい。