書評キャンパス―大学生がススメる本― 須磨千草 / 金沢大学医薬保健学域医学類2年 週刊読書人2022年6月10日号 権威主義 著 者:エリカ・フランツ 出版社:白水社 ISBN13:978-4-560-09821-9 監視団体であるフリーダム・ハウスは、近年の傾向として世界的に非民主主義化が進んでいると、2017年の報告書で発表した。またこの傾向は、2021年のフリーダム・ハウスの報告によれば、コロナウイルス感染拡大防止を建前として、一層強まっているという。権威主義、独裁政治と聞けば、中国の習近平政権や、ハンガリーのオルバーン政権など、メディアに載るものが脳裏に浮かぶが、果たして「権威主義」とは実際にはどのようなものであり、どのようなタイプがあるのだろうか。 これらの疑問に対し、国際政治の初心者にもわかりやすく解説してくれ、概略を摑むことが出来る書物が、本書である。 権威主義とは古くから存在している政治体制である。しかし著者のフランツによれば昨今、ヒトラー政権下のドイツのような、明らかに独裁主義と分かる体制から、その傾向は大きく変貌を遂げているのである。現在の権威主義国家は、自国が権威主義国家であるということを隠す傾向があるというのだ。 例えば、複数政党制による選挙を定期的に実施したり、議会制度が存在していたりと、我々が民主主義として思い浮かべるような実情が、権威主義統制下で行われている。このように民主国家に「擬態」することで、国際的な圧力から逃れ、援助などを受けることが可能になり、権威主義の生存率を上げ寿命を伸ばすことが可能になるのである。 一口に「権威主義」と言っても、その実際は様々であるが、本書でフランツは、軍が支配する軍事独裁、政党が支配する支配政党独裁、そして個人が支配する個人独裁の3つの下位分類を提示している。一般的には軍事型、個人型、支配政党型の順に寿命が短く、また個人独裁の支配の結末が、その他の権威主義のタイプに比べても、非常に悪く、タイプの違いは外交の手法にも強く影響するという。 それでは人々の自由を抑圧する傾向が強い独裁主義は悪であるので、武力を行使してでも革命を起こすべきなのであろうか。フランツによれば、どのように権威主義から脱却するのか、その手法によってもその後の国の運命は左右される。ギニアやコートジボワールなどの暴力的な方法を取った国は民主化しにくいのに対して、メキシコや台湾などの非暴力的な手法を取った国こそ民主化へと舵を切ることが多いというのだ。 権威主義国家が増加を見せている現状において、権威主義国家の本質と特徴を理解することは我々にとって重要なことである。しかし、権威主義国家は民主主義国家と比較して不明瞭なことが多く、その前提知識を頭に入れた上で、分析方法を学ぶ必要がある。本書は分かりやすい語り口で、権威主義の概略が説明されているので、国際政治の専門知識を持ち合わせていない読者にもピッタリの入門書である。(上谷直克・今井宏平・中井遼訳)★すま・ちぐさ=金沢大学医薬保健学域医学類2年。上智大学で英語、国際政治、国際協力を専攻。上智大学を卒業後、医学部に編入学。現在はスリランカの教育支援に力を入れている。趣味は読書、ワインなど。