書評キャンパス―大学生がススメる本― 栗原咲紀 / 共立女子大学文芸学部文芸学科文芸メディアコース4年 週刊読書人2022年6月24日号 ブレイン・プログラミング 著 者:A&P・ピーズ 出版社:サンマーク出版 ISBN13:978-4-7631-3552-0 私が本書を読んだのは、就活が始まってしばらく経った時でした。私たちの学年は大学二年次に上がる前にコロナウイルスの感染が拡大し、その影響で同じゼミの友人の何人かが「アルバイト先が閉店した」「家を引き払って実家に帰省する」と言っていたのを今でも覚えています。海外留学中の友人も急遽帰国し、現在でも大学が実施していた留学制度は中止になったままです。アルバイトを辞めてから登校日以外は外に出ないという人もいます。一方で私が出会った就活生の中には、コロナ禍にオンラインで文化祭を企画実施したという人から、自費で海外留学をしたという人までいました。なぜ、同じ環境下でこんなにも過ごし方が違うのでしょうか。本書では、その答えが「脳のRAS」にあるといいます。 本書の作者であるピーズ夫妻はオーストラリア在住の講演家・作家であり、特にビジネス書を多く執筆しています。本書の副題には「自動的に夢がかなっていく」とありますが、まさに本書の目的は「自分の人生をコントロールすること」にあります。そこで重要になるのが、先ほど出たRASの働きを理解することです。 RASは正式名称を網様体賦活系といい、人間を含むほ乳類などが持つ脳器官です。私達が何かに好奇心を惹かれたり喧噪の中で名前を呼ばれたりした時に注意を向ける働きをしており、いわば「脳のコントロールセンター」ともいえます。またRASは目標や夢を達成するための方法を探す能力があり、さらに達成期限がある場合は期限に間に合わせようとする力も生み出してくれます。 本書では、この働きを利用して自分のしたかったことを叶える方法が書かれています。具体的には、まず達成方法や手段・実現可能かどうかは考えず自分のしたいことを書き出していき、自分の夢を自覚していきます。次にその中でも優先順位と期限を決めて、最後に機会を待ちます。機会を待つというと、まるでただ生活していれば夢が叶うと思われるかもしれませんがそうではありません。著者は、まず自分の夢を本当に叶えたいと思うことでチャンスが来たときに迷わず行動することができると述べています。そしてそのチャンスが来た時にレーダーのように知らせてくれるのが、RASなのです。つまり、コロナ禍であってもRASを働かせれば、自分の夢を諦めずに方法を模索し、やりたいことを達成できた、と言えるのです。 本書の序盤ではRASの機能について学び、中盤では自分が本当にしたいことを実際に書き出して期限を決めていきます。終盤では目標を達成するために必要な条件や心得が350ページに亘って書かれており、最後にピーズ夫妻の実話が記されています。彼らは決して元々裕福だったわけではありませんが、各国の講演やベストセラーを通じ、巨額の富を手にしました。ところが一夜にしてその資産を失って借金を背負い、夫のアランはうつ病を患います。二人が成功者に返り咲く際に役に立ったのが、まさに新しい目標と期限を決めてRASを働かせることでした。二人はこう言っています。 「どうすればそれが可能になるのかは、わからなかったが、何をしたいのかを決めていった。それがいちばん大事なことだということを知っていた」 本書を読み始めた当初筆者は「偶然成功が重なった人の妄言」かもしれない、という疑念を抱いていました。しかしある引用を読んで心変わりして、RASを信じて行動することにしました。二人はこう言っています。 「人生でほとんど何も達成できない人、人生からほとんど何も得られない人が多いのは、自分の望みをはっきりとわかっていないから」(市中芳江訳)★くりはら・さき=共立女子大学文芸学部文芸学科文芸メディアコース4年。最近の趣味は美術館巡りと喫茶店巡り。