著者から読者へ 横山晶子 / 日本学術振興会特別研究員・言語学週刊読書人2022年10月21日号 0から学べる島むに読本 著 者:横山晶子 出版社:ひつじ書房 ISBN13:978-4-8234-1158-8 をぅがみやぶら わんなーわ 横山晶子でぃろ。ふたび みじらしゃぬ 本 いじゃちゃぬ むん やてぃ 紹介 しみてぃ たぼり。(こんにちは、私の名前は横山晶子です。この度面白い本を出したので、紹介させてください)。 まるで外国語のように聞こえるこの言葉は、鹿児島県奄美群島沖永良部島の言葉【しまむに】です。沖永良部島を始め、奄美群島、沖縄諸島の言葉は「<ruby><rb>琉球諸語</rb><rp>(</rp><rt>りゆうきゆうしよご</rt><rp>)</rp></ruby>」と呼ばれ、大昔に日本語の祖語と分かれてから、島々に独自の言語変化を遂げてきました。このため、現在では日本語話者が聞いても、殆ど理解が出来ないほどに異なっています。 「でも、本当に今もこんな言葉が話されているの?」と疑問に思う方もいるかもしれません。それはある意味でとても鋭い質問です。 なぜなら、沖永良部島で現在「しまむに」を話す話者は六〇代後半以上。かつての標準語教育や、社会の変化によって、世代間継承は途切れつつあり、近い将来、話せる人がいなくなる可能性もあります。 これはこの島だけの問題ではありません。現在、世界には七〇〇〇ほどの言語があると言われていますが、そのうち⅓は話者が減り、消滅の危機にあると言われています。ユネスコは二〇一〇年に「危機言語地図」を発表し、日本からはアイヌ語、八丈語、そして琉球諸島全域の言語がこれに掲載されました。 地域の言葉を継承していくかどうかは、コミュニティの一人一人に委ねられるもので、研究者が口出しすることではありません。しかし、長く島の言葉を研究する中で、この言葉の奥深さを、少しでも多くの人に知ってほしいという気持ちもあります。 この言葉を学びたい「誰か」が現れたときに、それに耐えうる十分な資料を用意しておくこと。それが、わたしたち言語研究者が今できる唯一のことだと思っています。 『0から学べる島むに読本』は、一二年間の言語研究の成果を踏まえ、しまむにを、まるで外国語を学ぶように、体系的に理解できるように執筆しました。親しみやすいデザインで、しまむに概論、音の体系、語の活用、文法、会話集、はじめの一〇〇語、など、言語を理解する上で必要な領域が幅広くカバーされています。本だけでは分からない……という人向けに、一課一課の動画解説を配信するオンラインのコミュニティも運営しています。そのすべてが、言語継承に向けた実験の過程であり、現在進行中の挑戦の過程です。 しまむにや琉球の言葉に興味がある人はもちろん、言語全般に興味がある方、これからの地域言語の記録・継承を考えている方にもぜひ手に取ってほしい一冊です。(よこやま・あきこ=日本学術振興会特別研究員・言語学)