脱植民地化運動と連帯 松島泰勝 / 龍谷大学経済学部教授・島嶼経済論・内発的発展論 週刊読書人2022年10月28日号 なぜ基地と貧困は沖縄に集中するのか? 本土優先、沖縄劣後の構造 著 者:安里長従・志賀信夫 出版社:堀之内出版 ISBN13:978-4-909237-75-0 今年は、沖縄(琉球)が日本に「復帰」して50年になる。このあいだ、「格差是正」「経済自立」を目指して、振興開発が実施されたが、県民所得は全国最下位、子供の貧困率は全国平均二倍という「貧困」のままである。国土全面積の0.6%しかない沖縄に、米軍専用基地の約70%が押しつけられている。このような「貧困」や「基地」の問題がいまもつづくのは、「本土優先、沖縄劣後」という構造的差別があるからだと本書は訴える。貧困対策も、沖縄への「自由の分配」「実質的平等」の保障こそが必要不可欠であるとされる。 なぜこのような構造的差別が生まれたのであろうか。1879年、日本は琉球国を侵略・併合したが、それ以来、沖縄は日本の植民地になった。戦後は米国の軍事植民地となり、「復帰」後も植民地のままである。「復帰」は、琉球人による脱植民地化のプロセスを踏んでおらず、宗主国である日本と米国との密約によって、新たな植民地を「沖縄県」という名でつくりあげた「琉球再併合」でしかない。多くの琉球人は、日本国憲法が適応され、その基本的人権が守られ、米軍基地もなくなると期待して復帰運動に参加した。しかし現実は、米軍基地が本土から移設され、新たに自衛隊基地が建設され、その基地負担はかえって重くなった。日本国憲法によって「平等権の保障」が実現できない最大の原因は、日米地位協定にある。それにより、基地由来の事件事故が発生し続けている。日本政府は日米同盟を重視し、米国に忖度して同協定を改正しようとしない。これも琉球人の生活や生命を軽視する「本土優先、沖縄劣後」のあらわれである。 日本は、沖縄に対する主権が「返還」されるべき国ではない。琉球国からその主権を奪った国である。本来ならその主権は琉球に「返還」されるべきである。琉球を侵略し植民地支配する日本が違法に琉球の主権を保持し続けていることから、現在の構造的差別が温存されることになった。構造的差別の問題を解決するには、脱植民地化運動により「琉球の主権」を回復しなければならない。 沖縄振興(開発)は、基地を押しつけるために実施されてきたのであり、その結果、基地が固定化され、「貧困」が深刻化するようになった。そこで本書は、貧困問題を解決するために、「沖縄振興特別措置法の廃止」を提言している。沖縄の植民地支配政策である「アメとムチ」の「アメ」として機能している沖縄振興体制を廃止し、同時に「ムチ」としての基地の廃絶を目指しており、わたしも賛成である。 また本書は、「沖縄基地縮小促進法(仮称)」のような、沖縄の基地負担を軽減する法律をつくり、「普天間基地の県外もしくは国外移転をおこなうべきである」と訴えている。現在、米軍再編計画にしたがって、日本政府の予算により、グアムに在沖海兵隊の移設先となる基地が建設されている。グアムは国連脱植民地化特別委員会で「非自治地域(植民地)」として登録されている。グアム住民は米大統領選の投票権、米下院議会グアム代表は議場での投票権が奪われている。グアムにおける基地建設反対の民意を無視して建設が強行されており、将来、グアム全面積の半分が基地になる予定である。グアムでも「米本土優先、グアム劣後」の関係がある。また、日本「本土」のなかには「日本人マジョリティ優先、アイヌ・被差別部落民・在日朝鮮人・在日琉球人劣後」という関係もある。これらの日米の植民地支配によりうまれた構造的差別をうけている人びとと沖縄が連帯して、「差別からの解放」をすすめていくこともできる。 近年、「琉球人ヘイト」が深刻化し、各種の「沖縄論」においても「沖縄責任論」が強調されるようになった。それは、琉球に対する植民地主義が強まっていることを意味する。本書は、本土の植民地主義を批判し、その応答責任を求めている。本土が応答せず、構造的差別をやめないなら、沖縄は琉球独立へと大きく舵をきることになるだろう。(まつしま・やすかつ=龍谷大学経済学部教授・島嶼経済論・内発的発展論)★あさと・ながつぐ=司法書士・沖縄国際大学非常勤講師・石垣市住民投票裁判原告弁護団事務局・「辺野古」県民投票の会元副代表。共著に『沖縄発 新しい提案』『福祉再考』など。沖縄県石垣市出身。★しが・のぶお=県立広島大学保健福祉学部准教授・貧困問題・社会政策。著書に『貧困理論入門』『貧困理論の再検討』など。