書評キャンパス―大学生がススメる本― 茂木春乃 / 高崎商科大学4年 週刊読書人2023年1月20日号 男が家事をしない本当の理由 著 者:淵上勇次郎 出版社:東京図書出版会 ISBN13:978-4-901880-64-0 一九八六年に男女雇用機会均等法が施行されたが、未だにパートタイムは女性が多い。それは、「女性は早く帰宅し食事の支度をする」という考えが当たり前の世の中だからだと予想できる。家事・育児をするのはいつも母。何故、家事をしない「お父さん」が生まれてしまうのか。 著者の淵上勇次郎氏は、一九四八年に佐賀県に生まれた。京都大学で経済学博士を取り、現在は高崎商科大学の教授・学長を務めている。著者は経済学を学んできたため、男性が家事をしない理由を「経済学の視点」と「夫・父としての視点」の両方から客観的に書いている。 本書は、八章で構成されており、最初の三章で男性が家事をしない理由について言及されている。まず、第一章で女性が家事・育児をするという考えがどこから来ているのか、結婚後いつから家事・育児の役割分担に男女差が出るのかが説明されている。幸せな新婚生活が崩壊する「役割分担」を防ぐにはどうしたらいいのか、その予防策が紹介されている。次の第二章では、男女共同参画白書や経済企画庁の調査データを基に、動物の本能である「支配欲」と家事・育児分担の関係が明らかになっている。本書は二〇〇五年刊行なので、データは少し前のものになるが、検討すべき課題は今も変わっていないと思われる。そしてここで、タイトルになっている「男が家事をしない本当の理由」が判明する。原因が判明すれば解決策を立てられる。第三章では、家事をしない男性が生まれる習慣と生まれない習慣について説明している。「夫が家事をしない!」と悩む方はここを重点的に読んでほしい。そして本書の後半では、男性が家事を進めるための具体的なヒントが書かれていく。 本書は、男性の家事参入によって幸せな家庭を築けることを前提に書かれている。しかし、男性を批判し女性の擁護をする内容ではない。男性が家事をしない原因を明らかにし、女性と男性が共生するために、それぞれが実践できることが提案されている。 非常に興味深いのは、男性である著者が「『ステキな女性が現れてけなげに尽くしてくれるはず』――それを『男性のお姫様願望』と呼んだ人もいる」「女性(妻)の〈社会進出〉は実現しても男性(夫)の〈家事参加〉が進まないというのではおかしな話」と切り込んでいることである。著者は男性にも関わらず、このような考えを幻想だと一蹴しているのだ。その中で、様々なデータを参考に家事・育児の在り方を書いているため偏った視点になっていない。さらに、家事分担に関する疑問点を、市場取引を例に分析することで、女性と男性のどちらにも肩入れせず読むことができる。 一方で、本書を読んで家事に参加する男性が増加しても、日本の家事参加率が増加しなければ、幸せな家庭も増加しないと考えてしまう部分もある。幼少期から男女関係なく家事をするのだと教えなければ、男性の家事参入は進まないだろう。本書では、母親は子どもに家事の経験を積ませ、父親は自身が家事を手伝う姿を見せたい、と推奨している。 しかし、母親が家事を教えることで「家のことは女性が」という固定観念を植え付けてしまう可能性がある。そこで、父親も子どもと一緒に家事をして、教えてみてもいいのではないか。 女性の社会進出が進むほど女性への負担が増える現状では、冷え切った家庭が増加してしまう可能性がある。本書を読んで男性が家事をしない本当の理由を知り、幸せな家庭を築くヒントを得てはいかがだろうか。★もぎ・はるの=高崎商科大学4年。卒業研究のテーマである「本の推薦システム開発」を行っています。少しでも本の魅力を伝えたいです。