自分や他者を大切にする人間関係のありかたとは 竹之内大輝 / もあふるオンライン教育実習共同代表・特別支援学級教員 週刊読書人2023年2月3日号 LGBTだけじゃない! わたしの性 好きのありかた 著 者:佐々木掌子(監修) 出版社:国土社 ISBN13:978-4-337-22003-4 好きってなんだろう? 子どもの頃、この疑問に出会った人は少なくないと思う。そして大人になった今、目の前の誰かに「好きって何?」と聞かれたらどう答えるだろうか。 本書の導入は、同性とも異性とも愛し合うイルカについてである。 「愛し合うのは異性同士だけではない。」 人間も他の動物も、同じようにいろんな愛を育む。冒頭から、読者の視野を広げてくれる。 そして、好きのありかたとして〝恋愛の感情〟や〝性的な好き〟は別のものであり、一人ひとりが異なる感覚を持っているということを繰り返し伝えている。例えば、好きな人と触れ合うとき、セルフプレジャーをするときどんなことに気をつけたらいいのか、家族のありかたの選択肢など、様々な場面と結びつけてポイントを伝えている。 ひいては、自分や他者を大切にする人間関係の〝ありかた〟にたどり着く。『好きのありかた』を通して、他者との関わり方についていろんな考え方を知ることができることも、おすすめポイントの一つである。 読み進めていくと、「ヘテロロマンティック(異性愛者)だと自認しているなかで、同性に〝触れたい〟と思う気持ちは性的指向にあたるのだろうか?」という疑問が生まれた。好きのありかたを考える上で、〝友愛〟を無視することはできないだろう。そう思っていたところに、〝友愛〟について触れているページがあったため驚嘆した。 好きのありかたとしての〝友愛〟について具体的な内容があると、さらに理解が深まるかもしれない。しかし、友愛についてセクシュアリティの分野で扱っている書籍は少ないため、本書の内容は一歩先に進んでいるといえるだろう。 また、ポップな色合いで手に取りやすいことも魅力である。そのため、図書室や書店に並んでいても、周りの目を気にせず自然と手にすることができる。さりげなく目を惹きつけるデザインであることが、子どもだけではなく大人にとっても、本書との距離を縮めてくれると思う。 小学校高学年以上を対象としているのは、内容が充実しているからだろう。しかし、小学校中学年までの子どもに対しても、大人が読み聞かせしながら一緒に学ぶことをおすすめしたい。本書を通して子どもたちと学校や家庭でのコミュニケーションを図り、性に対しての理解を深めるきっかけにできるのではないかと思う。 中高生にとっては、本書を読み、思春期特有の多くの悩みを解消してくれることが想像できる。思春期に入ると、自分のセクシュアリティや、パートナーとの関係性で悩むこともあるだろう。そんなときにこの本に出会えたら、どれだけ救われるだろうか。 本書は「性」について扱った全四巻シリーズの第三巻として書かれている。前書の流れを汲み、「自分の好きのありかたってなんだろう?」ということを主眼に置いて展開されている。次巻はまもなく刊行されるそうだが、「性」についてここまでポップに多面的で具体的な内容を扱った児童書は数少ない。是非、シリーズを通して読んでもらいたい。(たけのうち・だいき=もあふるオンライン教育実習共同代表・特別支援学級教員)★ささき・しょうこ=臨床心理士・公認心理師。明治大学文学部心理社会学科准教授・臨床心理学・性科学・性心理発達。GID(性同一性障害)学会理事。医療機関等で性別違和のある子どもとその家族に対するカウンセリングを担当。著書に『トランスジェンダーの心理学』など。