書評キャンパス―大学生がススメる本― 野山大樹 / 大阪国際大学人間科学部心理コミュニケーション学科2年 週刊読書人2023年7月7日号 だから僕は大人になれない 著 者:ぺいんと 出版社:KADOKAWA ISBN13:978-4-04-896998-7 推しが本を出した。推しを深く知る機会だと思い購入することにした。 本書は『マインクラフト』というゲームの実況動画を投稿しているYoutuberグループ「日常組」に属している、ぺいんとによって執筆された。本書の構成は、自身の幼少期から動画編集・企画演出等を行うようになる現在までを書いたエッセイ、日常組の企画会議とそれぞれの細やかな仕事役割について、彼らの動画制作の裏事情から、動画内容に関する事まで幅広く記されている。さらに書下ろしの短編小説が5つと中々に読み応えのあるものとなっている。 エッセイでは、著者の感性の原点と感じられるような、エピソードの一つ一つが飛びぬけて愉快だ。その一つが「来世で食べましょう」で、彼の小学3年の時に、父親がクレープ屋を開業したと話が始まる。彼は「なんでいきなりクレープ屋?」との疑問を抱きつつも、特に深刻には考えていなかったのだが、これが地獄の始まりだった。それからは朝食にクレープ、おやつがクレープ、そして夕食にもクレープがでることがあった。流石に甘いもの好きだった著者も、一か月近くクレープが出てくる様は、「マジできつい」と書いている。その後、父親がクレープ屋を突然廃業するまでこの生活が4年ぐらい続いたが、「僕はあれからクレープを食べようと思ったことは一度もない」と書く。筆者は落語「まんじゅうこわい」などの「こわい」といいつつ、笑える作品が好きなので、特にこのエッセイが気に入った。 短編小説では「スツの侵略」が、YouTube動画にもつながる作品で、中でも印象に残った。「スツラー星人」が登場する、奇怪で面白い作品である。 次に、本書のタイトルにもなっている、最も魅力的だと思う部分を語りたい。ここでいう「大人」の意味についてだ。青春とは、キラキラした輝かしいものと一般には思われているが、実際には、灰色の春を過ごす人もいる。灰色の春を越えてきても「大人」にはなれるが、本書の「大人」とは、充実した青春を送り、青春に戻る必要のない人を指すと思う。いわゆる「リア充」である。一方、著者のぺいんとは、リア充の逆の「非リア充」であった。しかし、かけがえのない仲間を手に入れ、灰色の青春時代を塗り替えるように、全力で子供心を発揮させ、現在進行形でリアルを充実させている。未だ心が青春の中にいる為に「だから僕は大人になれない」のだと、筆者は読み取った。この本は、仲間や環境が変われば、いくつになっても青春の機会は再び回ってくるという事を教えてくれた。 大学生にはまだ価値のある本ではないかもしれないが、心が干からびて「大人」であることに疲れてしまった時に、是非この本を思い出して読んで欲しい。きっと、「大人」になれない著者の生き方は参考になる。「大人」でいることは決して簡単なことではないと考える。責任や義務でがんじがらめにされることも少なくはない。理不尽なクレーム、伝達のミス等、自分ではどうしようもないこともある。そんな中、この本は青春時代の体験を想起するのに役立つだろう。 筆者も中学、高校と充実した青春を送ることが出来ないまま、今年二十歳を迎え「大人」の一員になる。だが、この本に出合って希望を貰えた。私も未だ見ぬ仲間達とともに青春を取り戻せる可能性があるのだから。★のやま・だいき=大阪国際大学人間科学部心理コミュニケーション学科2年。好きなことは小説のプロットを考えること。最近はTwitter漫画にハマってます。