書評キャンパス―大学生がススメる本― 佐野慎之助 / 都留文科大学教養学部地域社会学科3年 週刊読書人2023年9月1日号 考える日本史授業 5 著 者:加藤公明 出版社:地歴社 ISBN13:978-4-88527-244-8 今まで学校で受けてきた歴史の授業には、どのような印象があるだろうか。暗記ばかりでつまらない? 一方的に話を聞いて、ノートを書いたり、プリントを穴埋めした印象しかない? 歴史が好きな人もいるだろうが、おそらく「歴史は暗記科目でつまらない」という声が多くの人たちから聞こえてくるだろう。 今回紹介する本は『考える日本史授業』シリーズの第5巻である。著者は千葉県で長年高校社会科教員として勤めた加藤公明である。本シリーズでは、加藤が長年学校現場で行ってきた、具体的な「授業実践」 を基に、歴史教育だけではなく歴史学、歴史認識論にまで話を広げている。 加藤実践の大きな特徴は「考える日本史授業」である。「考える日本史授業」に関して加藤は次のように定義づけている。 〈「考える日本史授業」とは、生徒が自分で歴史の問題や謎を考えて発表し、それをみんなで検討して、賛成の意見(生徒は「付け足しの意見ですが、いいですか」などといって発言します)や質問や批判も出し合って、つまり、討論しながらみんなで歴史の真実に近づいていこうという授業です〉 加藤の授業は、高校歴史の授業でよく行われているいわゆる「チョーク&トーク」(先生が黒板に要点を書いて、それを基に話をする)授業とは大きく異なっている。学校現場で使われている学習指導要領には「主体的・対話的で深い学び」という言葉がさかんに登場するが、加藤の実践はそれの「先輩」と言えるであろう。 加藤の授業内で行う活動(議論)の特徴は、ただ思いつきの意見ではだめで、きちんと史実や根拠に基づいた、他の生徒を説得させられるような意見が求められることである。いわゆる活動型の授業では、活動したはいいものの、授業時間内で何を学習したのかわからないまま終わることも多い。しかし、加藤実践は与えられた史料や学校教材(教科書や資料集)、今まで学習した知識を総動員して取り組むことにより、生徒の深い学びにつながる。 本書には、具体的な授業実践事例が多数紹介されている。取り上げられている授業テーマも様々だが、たとえば第2節の「近世アイヌの実像に迫る」というテーマの授業が、筆者には興味深かった。本実践では生徒自身が「歴史を学ぶ意義」を見出せるようになっている。一枚の肖像画をきっかけにして、江戸時代のナショナルアイデンティティまで広げていく様子はまさに圧巻である。 本書はシリーズの5巻目だが、ここから読んでも問題はない。5巻では、日本史授業に関してはもちろんのこと2022年から始まった歴史総合、今年から始まった日本史探究、世界史探究に対する加藤の見解、そして大学における社会科教員養成についてまで述べられているため、日本史以外に関心がある人が読んでも面白いだろう。 本書は社会科歴史教育の授業論の本であるので社会科の教員志望の方はもちろん、歴史に関心がある、ひいては歴史の授業がつまらなかった方にこそ手にとってもらいたい。本書は、新科目が始まり歴史教育に関心が高まっている今こそ価値があるといえる本であろう。 ★さの・しんのすけ=都留文科大学教養学部地域社会学科3年。関心がある分野は(社会科)教育、歴史学、学校図書館。図書館サークルLibropass渉外、性教育サークルSexology副代表。